2011年3月22日火曜日

東南アジアの気候変動に対する脆弱性マップ ~自然災害の分析方法~




















http://www.idrc.ca/uploads/user-S/12324196651Mapping_Report.pdf
 Climate Change Vulnerability Mapping for Southeast Asia

今回はIDRC等が出している、東南アジアの気候災害(変動)に対する脆弱性マップをレビューしつつ、自然災害に対する影響評価の方法論をコメントをしてみる。この調査は、要点は押さえており、改善点も明確であるので、調査のスタートポイントとしては良い例である。


前提条件と目的をを明確にする

気候変動を含む自然災害は不確定要素が多すぎるし、影響も多岐に及ぶ為、前提条件を明確にして、調査の対象を狭める事が必要になってくる。同じように、調査の目的をはっきりする事により、フォーカスされた良いレポートになる。この東南アジアの脆弱性マップでの、目的と重要な前提条件は以下のようである:

  • 脆弱性評価を下記の前提条件で簡潔に作り、関係者に見せる事を目的としている。
  • 人口密度が多い所は、気候変動からの影響を受け易い。
  • 自然保護された地域のサイズは、生物多様性を図るパラメーターである。
  • 生物多様性が高いとは、気候変動からの影響を受け易い。
  • これらの状況は、今後悪くなる。
個別に見て、証明しなくてはいけないものもあるが、帰納推理(過去の経験からの推測)これらの前提条件はそれほど悪くないものであろう。

 

モデルの構成

このブログでも、説明しているがIPCCが定義している脆弱性評価とは、物理的な気候災害に加え、影響を受け易い度合いや、適応能力を見る必要がある。下記の図がそれを表している。一番下のひし形が「適応能力」で、その上に「影響のうけやすい度合い」と「気候災害」が続く。

















そして、適応能力を決定するためには、サブ構成は以下の様である。このブログでも紹介しているように、国連の人間開発指数や、収入、インフラ整備度等が含まれている。

















どちらも図も重要な構成は捉えている。


結果
調査の結果、以下の様な図が出てくる。


気候災害マップ

















影響のうけやすい度合いのマップ
















適応能力マップ
















 脆弱性マップ

















最初の「気候災害マップ」と最後の「脆弱性マップ」は似ているが違いがある。それは、2番目と3番目の影響のうけやすい度合いや適応能力によりこの状況は変わってくる。簡単な例を挙げると、フィリピンは「雪崩以外の全ての自然災害」があると言われている。そして、日本は「雪崩を含めた全ての自然災害」がある。しかし、日本はフィリピンより、自然災害に対して脆弱ではない。それは、日本の方がフィリピンよりも、災害に対応するインフラが整備されているとか、金銭的な蓄えがあるとか、助け合う社会秩序があるなどの理由がある。


災害がある事が、脆弱性であるとは言い切れない。


影響のうけやすい度合いについて述べると、このIDRCの調査では、カンボジアは人口密度が低いため、脆弱性を下げるが、ジャカルタは人口密度が高いので、比較して脆弱性を上げることになっている。もちろんこの結果に異論があるだろう、しかし、この調査では「人口密度による脆弱性」と前提条件を出しての調査であるので、「人口密度」の観点からは大きく外れた結論ではない。これはこのブログで説明している「モデルが正しい答えを出すかの検証」をパスすることになる。ただし、前提条件が脆弱性を推論するのに正しいか、「正しいモデルを使っているかの検証」をパスしたと言えない。

例えば、上の図で紹介している、適応能力のサブ構成では、専門家とのヒアリングから、均等ではない重みを構成に与えている。しかし、モデルの主構成は、災害度も適応能力度も同等な重みになっている。そして、洪水も干ばつも均等の重みが与えられている。これは、正しいだろうか?普段から雨量が多い地域は、干ばつより、洪水の方が重要度が高いだろうし、海の無いラオスで海面上昇は意味を成さない。つまり、「正しいモデルを使っているか」と言われたら、そうでだろう。脆弱性評価では、地域の特性を取り入れる分析、ボトムアッププロセス、が大事であると言われている。それを行う事が、この調査の改善点である。


最後に

今回、日本も地震、津波、原子力発電所事故で、自然災害の脆弱性が明るみになった。想定外の規模であっただろうから、「事前評価が間違っていただろう」とは簡単に言えないし、評価により全てのリスクを回避するインフラ整備をすることも間違っているだろう。今は、日本の適応能力も想定以上であると信じたい。