2011年4月25日月曜日

気候変動脆弱性指数の種類と製作方法 ~複雑なシステムを単純化する、政治的な「重み付け」~















地域レベルでの、気候変動脆弱性指標の暫定評価とロードマップの説明


Preliminary assessment and roadmap for the elaboration of Climate Change Vulnerability Indicators at regional level



このPDFの配布先が見つからなかったので、もし興味が有る方がいたらメールかTwitterなどで連絡してください。個人的に送ります。




欧州がストックホルム環境研究所(SEI)やポツダム気候研究所(PIK)に委託したレポートをレビューしながら、脆弱性評価指数の作り方を説明する。特に今回は「指数の種類と製作アプローチ」について書いてみる。このレポートの目的は、EUの地域レベルでセクター毎に、脆弱性評価を行う為に指数の製作とその方法を記述することである。脆弱性では、セクター毎に評価を行うかどうか議論があるが、セクターを超えた評価も、政策としてはセクター毎に落としこむ必要がある。地域レベルでなら、なおさら公的資金の配分などを考える必要がるので、このアプローチでも良いのではないかと思われる。別の味方をすれば、もしセクター毎に脆弱性評価を行うのであれば、仮にフォーカスが地域レベルでなくても、このレポートで記載されている方法論は有効であると思う。


前半では指数の種類とアプローチについて書いてあるので、今回はそれを説明する。指数には大きく分けて二つのタイプに分けられる。

  1. 総計指数(Aggregated)
  2. 複合指数(Composited)

総計指数とは、GDPや年間総雨量のように、個々の生産価値や日々の雨量を足す事で作ることが出来る。例えば、雨量の測定は共通単位のミリで測ることができるので、1ミリ+2ミリ=3ミリの様な単純な計算で年間総雨量による総計指数を作ることが出来る。しかし、複合指数はそうはいかない。例えば、干ばつ指数を作るとき、年間雨量(ミリ)、干ばつの期間(日数)等を考慮することが必要となる。この時、ミリと日数は共通の単位ではないので、単位を揃えるための「重み付け」が必要になってくる。極端で単純な例えだが、もし、年間雨量が干ばつ指数を作るのに、干ばつの期間の半分の情報しか与えないんとしたら、指数は以下のようになる:

干ばつ日数1日+年間雨量2ミリ*0.5=2

この場合、「2」の数字には絶対的な意味はなく、他の指数と比較した時だけに意味がある。


そして、最終的な気候変動脆弱性評価のためには、総計指数ではなく、複合指数が必要になる。仮に干ばつを降雨量だけで導きだす総計指数にしたとしても、それだけでは脆弱性を測ることはできない。





















何度かこのブログでも書いているが、国連の定義による脆弱性とは、干ばつなどの気候だけでなく(Exposure)、人口密度(Sensitivity)や収入などの適応能力(Adaptive capacity)も含まれる。最終的にはこれらの統一されていない単位の情報をまとめる必要があるので、複合指数によって、脆弱性をあわらす必要がある。

そして、複合指数を作るための「重み付け」は相当気をつける必要がある。見てのとおり、複合指数にする事により、複雑なシステムを単純化して示すことが出来る。しかし、この指数の製作が科学的、客観的でない場合には、「重み付け」は政治的になってしまう。気候変動は不確定要素が多く、科学だけでなく政治的な問題になっているので、政治的に「重み付け」が作られることに実際はなってしまうだろう。しかし、それを完全に否定するのではなく、政治的にでも、「重み付け」が作られる過程を明文化することは意味があると考える。更に、指数の最終的な利用者が政策決定者等のスティクホールダーであるなら、協議をする事によって作られた指数のは彼らに受け入れられやすい物となるだろう。この方法で指数を作ることを規範的(Normative)と言う。


他方、完全に科学的な検証を諦めるわけではなく、データに基づく、帰納的(Inductive)や理論に基づく演繹的(Deductive)な方法をできるだけ取り入れることが必要になる。実際、過去にEUで行われた脆弱性評価のプロジェクトでは、帰納的、演繹的、規範的である方法を織り交ぜて指数を作っている。それぞれの利点と不利点をまとめると以下のようになる。


気候変動の脆弱性は完全に科学的に評価ができないが、それでもこの3つの方法を合わせることにより、より客観的で、より受け入れられやすい指数が出来上がると思う。