2011年12月21日水曜日

作物の発育関数を使って、指数を説明 ~指数の目的と限界~

曖昧なものをはっきりさせるために、数字を使って物事をはっきりさせたりします。例えば、自分が太っているのかどうかを鏡で見て曖昧に判断してもいいですが、ボディマス指数を使えば、明確な数字がでて、判断がはっきりします。この判断基準となる指数の説明をします。


指数は大きく分けて、総計指数(Aggregated Index)と合成指数(Composite Index)に分けられる。例えば、国内総生産(GDP)は単一の単位を日本円で計算した日本の生産量の合計であるから、総計指数である。一方、国連が作成している人間開発指数は、教育年数、年収金額などの複数の単位から指数を合成する為、合成指数である。双方一長一短ですが、その説明は後回しにします。


単一の単位を使っているからといって、総計してしまえば指数ができあがるとも限らない。その例を作物の 発育関数 を使って説明してみよう。例に上げているのは、下記のプロジェクトで使われた 作物の 発育関数  です。
USDA-Water Erosion Prediction ProjectHillslope Profile and Watershed Model Documentation 



この生物気候学の発育関数は一日の熱の蓄積により決まるとしている。だから、使われている単位は温度だけです。

HUが一日(i)の熱量による評価基準の単位であり、TmxとTmnが最高と最低気温である。Tbは個々の作物(j)が必要としている最低気温。そして、このHUの総数が評価基準になる。HUだけ見ても、それがいいのか悪いのかはわからないが、同じ方式で計算された他の地域の同作物を比べたら、熱量が多いのか少ないのかはわかる。目的によってはそれで十分かもしれないが、もう少し意味のある指数にするために、割合化してみる。


HUIが指数で、PHUはその作物が成熟するのに必要な総合の熱量(potential heat units)である。HUの総数をPHUで割っているので、割合が大きければ大きいほど、十分に熱量があることになる。例えば、PHUが1.5なら、「成熟するのに必要な1.5倍の熱量がある」ことになり、0.5なら、「成熟するのに必要な半分の熱量しかない」ことになる。

これによって、指数自体が意味を持つことになる。そして、これはある意味指数が評価基準化された事になり、他の評価結果と比べる事も出来る。作物の発育には水は、制限要因であり、十分に熱量があったとしても、発育が制限される。そこで、水の研究と比べることで「成熟するのに必要な1.5倍の熱量があるけど、水が50%足りないね」等の意味がある結論を導くことが出来る。


ここでわかるように、単一の単位からの作られた指数には限界がある。農業の生産には色々なファクターが関わっている。気温や水以外にも、農家の労働力やトラクター購入等の資金力なども必要である。これらの色々は単位の変数を混ぜることにより、より現実的な作物の生産関数が作られることになる。つまり、合成指数は複雑であるが、より現実的な評価基準になるだろう。

最初に取り上げた国内総生産も人間開発指数も「発展度」を探る評価基準として使われる。人間開発指数は平均余命と年収の間で、どちらがどれだけ重要かバランスを取らなくてはならない。これは生産量を足していけばできあがる国内総生産より複雑であるが、物やサービスの生産量だけが、発展ではないので、人間開発指数がより現実的に「発展度」を示しているとも考えられる。一方、国内総生産を見れば、「発展度」がわかるのは事実であり、複雑なバランスの計算を剃る必要が無いので、国内総生産で比べたほうが当てになるとも考えられる。

指数を作る一番の目的は、曖昧な基準を明確(Precise)にすることである。しかし、その基準が合っているように正確に(Accurate)指数を作ることも大事です。その話は、又いつか書きましょう。



2011年12月20日火曜日

農業へのインパクトの評価方法 ~ProbableとPossibleの違い~

農業は今後予想される地球規模の環境変化から一番被害を受けるセクターの一つと言われています。インドネシアの政策レポートを読んでも、農業に関する政策提言が一番多いです。これらの政策は、学術的なインパクト評価方法に基づいて試算されることが望ましい。

しかし、全ての評価方法は何らかの欠点があるだろう。さらに、その評価方法が使っているモデルも、モデルが正しく機能する限定条件があるだろう。その事を考えながら、代表的な評価方法をリストしてみる。


生産関数(Production function)
このアプローチでは、異なった気候条件の下で、異なる作物の収量を生産関数を使って検討します。このアプローチでは作物が変化する気候に適応しない事と、作物の選択を含む土地の使われ方選択が無いことを、前提としています。その為、変化する気候条件の農業の利点をモデルは過小評価することになります。

第2前提の作物の選択を考えない事は、かなりの過小評価でしょう。例えば、インドネシアに農家に話を聞くと、「水が足りないから、稲作からココア栽培」にしたとか、「農業には向かないから、土地を売って住宅が建った」との話が聞かれます。ココア栽培に転作するすることにより、農家は利益が削減するばかりか、収入が増加した可能性が高いです。生産関数アプローチでは、ここの収入の増加を見ることはむりです。


農業ー経済モデル(Agronomic-economic model)
農業ー経済モデルは、複数の組み合わせから、農業へのインパクトを評価します。温度や降水などの生産関数により農業モデリングを作り、それを経済モデリングにインプットします。経済モデルでは、作物の選択は市場価格を考慮することにより、より現実的な作物の収量に影響を予測することができるであろうと思われます。

どこまで、モデルを複雑にするかは議論されるところですが、気候変動等への適応を考慮しないと上の生産関数の様に、利点を過小評価することになります。ただ、いままで起こった事が無い、変化に対しての作物や農民の適応をモデル化するのは難しい所です。


農業―生態系地域モデル(Agro-ecological zoning)
このゾーニング(地域)と言われる手法では、土壌、地形、気候の特徴の組み合わせにより「ゾーン」を定義します。各ゾーンには、土地利用のための制約とポテンシャルの組み合わせをそれぞれ持っており、土地が利用されているかどうか分析することができます。さらに、この基本的なゾーニングに、土地保有、土地の利用、人口や家畜の密度、インフラ設備を付け加えることにより、土地利用計画を議論する事ができます。

http://www.fao.org/docrep/W2962E/w2962e-03.htm




他のアプローチと同様に、このアプローチも適応を農民や生態系の適応能力を加味しないと、利益を過小評価することになります。

つまり、モデルは「一番起こりえる将来を予測(Probable)」表している様に見えるけど、実は「限定された条件下での最大の可能性(Possible/Feasible)」を表しているだけだったりします。後者が問題だというのではなく、「限定している条件」が何であるか見極めて、モデルを使用することが大事であると思います。

日本語だと、ProbableもPossibleも同じく可能性と訳されますが、中身は全然違います。お気をつけ下さい。