2013年6月30日日曜日

ガジャマダ大学のコミュニティ・プロジェクト : ゆ~っくりと地元に根づいた持続可能な開発プロジェクト



少し前に、ガジャ・マダ大学(Gadjah Mada University)のコミュニティ・プロジェクトを見てきたので、その事について書いてみる。ガジャマダ大学はインドネシアで一番古い大学で、バンドン工科大学やボゴール農科大学の様な、優秀大学である。しかし、そこはインドネシア、これらの大学の卒業生を会っても、大学を訪問しても感心したことは無い。たまに優秀な人に会うことがあるが、大体は、インドネシアの大卒は先進国の高卒の能力、大学院修士修了の能力は先進国の大卒の能力といった感じである。

しかし、このガジャマダ大学のコニュニティ・プロジェクトは素晴らしかった。こんなことをしている大学は無いのではないかと思う。あったとしても、世界的にも数大学だろう。

コニュニティ・プロジェクトとは

ガジャマダ大学の全学生は卒業前に、2ヶ月程コミュニティプロジェクトに参加することが卒業の必修条件とされている。毎年3回に分けて、コミュニティ・プロジェクトが企画される。約5000名の学生は7月1日から8月31日までの期間に、このプロジェクトに参加する。他の期間に参加する学生は500名である。プロジェクトはインドネシア全土で企画・運営されており、半分ほどの予算は大学から支出し、他は国、政府、NGOからの支援を受けている。

そして、30名の学生が一つの村に派遣され、更に5-6名のグループに分かれて、プロジェクトが企画される。村での問題点を断定してから、派遣されることもあるが、派遣されてから学生が問題を自身で見つけて、解決する事で通常プロジェクトが進められる。

言われたことができるが、自分で問題を解決をしようとする姿勢が足りない事は、アジア人全般に言えることだと思うので、この教育方針は素晴らしい。

コミュニティをサポートする内容は、公的機関への予算申請書の記入、機器のデザインと作成、能力強化、やる気を起こさせる活動等多岐にわたり、期間も数十年と長いプロジェクトもある。大学だけでなく、村人もプロジェクトに対して予算を使うことが望ましいと考えている。

今回の見学は、気候変動の適応策の例を探すことであったので、この観点から訪問したコミュニティ・プロジェクトを説明します。


1)消防プロジェクト

ジョグジャカルタを含むインドネシア(の都市部?)ではこの様な、細く消防車が通れない道が多く存在する。




その為、狭い道でも通れるように、このコミュニティ・プロジェクトはこんな消防車を作成した。この消防車は日本の消防車を元に、学生によってデザインされ作成されている。




また、操作方法や他の消防に係る活動も学生によって指導されている。本プロジェクトは当初日本の大学によって指導されたが、それをインドネシアの状況に会わせて、改良されている。例えば、簡易担架を毛布を使って作ることを日本から教わったが、インドネシアには毛布が無いため、サロン等を使い担架を作ることになった。このプロジェクトは有益であると認められ、近隣のコミュニティでも同じようなプロジェクトを普及させている。視察したコミュニティは2番目に、この消防車が導入された場所である。


インドネシアでは乾季により、火災が発生する。その為、同様の消防プロジェクトを乾季が長くなる地域に導入することは、気候変動の適応策と考えられるだろう。


2)有機肥料プロジェクト

このプロジェクトの始まりは、牛の糞尿から発生する悪臭を抑える方法を考えるところから始まった。悪臭の原因は、酸素の欠如からメタンガスが発生することである。

その為、この様な施設をつくり、糞がより空気に触れやすくし、メタンガスが二酸化炭素まで分解される行程を創りだした。実際に、この施設には悪臭はほとんどなかった。





そして、悪臭を処理する施設から有機肥料の生産がされる事となった。糞は乾燥された後、この粉砕機によって、有機肥料となり、使用もしくは販売される。粉砕機のデザインと作成も本プロジェクトが行い。学生は、その他の農業指導なども行っている。






生産された有機肥料を使うことにより、唐辛子、メロン、トマト等をより効率的に生産できるようなった。また、1KGの肥料は600ルピアで、1リットルの液体肥料は500ルピで販売され、年間5百万ルピアの利益を上げている。このプロジェクトには農民も資金を出している。その他、養殖魚の施設などがみられた。





既存の気候変動脆弱性評価や、他の有識者の説明からも、農業への適応策の一環として、有機肥料の有効性がしめされている。また、メタンガスを二酸化炭素まで分解することは、二酸化炭素より十数倍温室効果が高いと言われるメタンガスを削減することになるので、緩和策としても有効である。

メタンガスを集めて、バイオガスのプロジェクトをやってもいいのになとも思った。バリ島では、豚の糞尿から似たようなプロジェクトが試されていて、バイオガスの生産もされている。

3)農業指導プロジェクト

この農業プロジェクトがされている地域は、ジョグジャカルタの平地で、以前より降雨量が減ってきている稲作地域である。干ばつへの対応策として、土地に段差を付けて、水の流れを小規模でコントロールし、稲作、野菜、養殖魚の生産を行なうことにした。その為、この地域ではパッチ状に野菜と野菜が生産されている。



野菜が植えられている箇所は、稲が植えられている箇所より一段高く土が盛られている。その為、乾季でも稲作に十分な水が低段地に集められる。稲作ほど水を必要としない唐辛子等の作物が高段地に植えられる。雨季の期間は、低団地では稲作を行う事は水が多すぎるので、稲作は高段地で行われ、低団地では養殖池として、魚の養殖が行われる。


このプロジェクトでも、学生は農業指導等を行った。本コニュニティ・プロジェクトは既に終了している。気候変動の適応策としては、一番直接的に関連するプロジェクトであると思う。


4)植林プロジェクト

この植林プロジェクト(Wanagama)は40年前に、スラタン王から150ヘクタールの荒地がガジャマダ大学に寄付された時に始まった。この地域の土地は養分が少なく、土地の水分保有量も少ないため、生産性の低い土地であった。その為、ガジャマダ大学はコニュニティ・プロジェクトとして植林を始めた。現在は、このの様に森として再生している。





また、植林の結果、以前より地下水を供給できるようになり、土地の生産性も向上したといわれた。現在植えられている木は、経済的には価値が無いので、今後は経済性がある植林や、フルーツ等の栽培を考えている。

これはコニュニティプロジェクトとしては、非常に長いものであり、活動も植林の重要性を現地住民に指導し、プロジェクトを行なうことのやる気を出させる所から始まった。その後、植林する木の品種を考え、毎年その成長を現地住民と確認することで、現地住民のやる気を維持させてきた。


5)カカオ栽培プロジェクト

このプロジェクトは、上記のWanagama植林地の近くで行われている。この住民のニーズとしては、Wananagama植林よりは経済性を重視するところから始まった。




水と養分がすくない事と収益性から、コーヒー豆の栽培も企画されたが、最終的には、適正気温からカカオの栽培が15年前程から始まっている。ここでも、学生は住民にやる気を起こさせる事から栽培活動を始めている。技術的な知識で問題に当たった時は、指導教官に頼むか、来年の学生への課題としている。カカオ豆は発酵過程を通すことにより、商品としての質があがり、価格も1KGあたり、1800ルピアから2200ルピアに上がる。カカオの発酵には最低800KGが必要と言われていたが、ガジャマダ大学の指導により、20KGでも発行できるようになった。カカオの発酵はこの箱で寝かせて、一日ごとに別の箱に移す過程を一週間続けます。




また、カカオの栽培を行なうことにより、土地の保水力が高まり、井戸を掘り水が出るようになりました。



このプロジェクトも、Wanagama植林地の様に、干ばつ地の適応策としては経済的にも有効な実例だとおもいます。

感想

このコミュニティ・プロジェクトは時間がゆ~っくり流れていて、現地住民の関わりも十数年単位の場合もあります。その為、本当に住民が必要としているものを理解でき、住民が快適と思えるスピードでプロジェクトを企画し運営出来ている事が、成功要因であると考えられる。案内をしてくれたガジャマダ大学の先生も、「ゆっくり進める事が大事」と言っていた。インドネシアは、全ての事が非常にゆっくりと進むので、それに合わせることが望ましい持続可能なプロジェクトのあり方であると感じました。