2013年11月1日金曜日

OPRF 海洋政策研究財団 人と海洋の共生をめざして|ニューズレター|314号|サーフィンを通して環境問題を体験することの大切さ



ちょっと前だけど、OPRF 海洋政策研究財団に僕のサーフィンと環境研究の記事が乗ったので、ブログに再投稿しておこう。




サーフィンを通して環境問題を体験することの大切さ

[KEYWORDS]海岸生活/環境研究/体験学習
ストックホルム環境研究所フェロー◆高間 剛 
環境問題研究者には、実際に環境問題について身を持って体験して、この問題に対する行動を取ることが大事である。その点で、サーフィンは豊かな体験を与えてくれる。サーフィンをしていると、天候や海洋のリズムに合わせて生活をするようになるので、環境の変化に敏感になり、環境問題にも情熱的に取り組むことができる。また、環境問題の研究成果を開発団体、市民団体、現地政府に伝える意味でも、体験することは重要である。

サーファーと環境問題研究者の共通点

サーファーと環境問題研究者たちには、スポーツや仕事をライフスタイルの一部にしているという共通点がある。他にも、活動がライフスタイルになっている事柄はあるだろうが、私は2つの例をこよなく愛しているので、両者の共通点を比較しながら、体験することの大切さ考えてみたいと思う。特に、環境問題研究者にとって、サーフィンを体験することが優れていることを説明しよう。
サーフィンは海辺で楽しむスポーツであると同時に、自然と海と暮らすライフスタイルでもある。プロライセンスを保有しない人も含め、サーフィンを愛好する人たちをサーファーと呼ぶが、サーフィンをスポーツでなく、海岸沿いの生活様式であると考えれば何ら不思議なことではない。そのため、サーファーには海岸保全や、水質問題を深刻に受け止め、環境保護を訴える人たちも多い。
環境問題に関わる人たちも似たところがある。Environmentalistを『新英和中辞典』(研究社)で引くと「1. 環境問題研究家」と「2. 環境保護主義者」と出てくる。「環境問題に関わる」ということは、研究する職業だけでなく、主義を掲げるライフスタイルでもある。
私も海洋や気象を含む環境問題に取り組む研究者をしているが、同時に国際開発機関のプロジェクトにも実務者として関わっているし、過去にはオーストラリアを自転車で一周したり、サーフボードとテントを担いで、インドネシアやニュージーランドをキャンプして周ったこともある。「高間さんの様な研究者は日本にはあまりいませんよ」と言われるが、シンクタンクで環境問題を分析し、別の時は、途上国のNGOや国際機関で直接海洋や環境の問題解決をしたり、活動家となり海岸汚染の抗議活動をするのも望ましいキャリアだと思う。実際に環境問題について身を持って体験して、この問題に対する行動を取ることが大事である。その点で、サーフィンは豊かな体験を与えてくれる。
環境問題に取り組むために、実際に経験することの大切さ

サーファーと環境問題研究者は、環境保護主義を掲げるライフスタイルで繋がっている。サーフィンでも環境問題でも、ライフスタイルに取り入れることはとても大事である。サーフィンをする目的とはなんだろう?大洋からやってくるうねりが、消える瞬間に切り立ち、波になり、それに乗って楽しむことだろう。しかし、海水が汚れていたり、ビーチが消えてしまっては、清々しい気持ちはなくなり楽しめなくなってしまう。無理な海岸整備で、波が消えてしまうことさえある。だから、サーファーは環境問題に敏感になる。
一方、環境問題研究者の目的とはなんだろう? 彼らが科学者の一員であるなら、科学(Science)がラテン語の「知る」から来ていることからわかるように、その答えは「知ること」である。環境問題を見つけ出し、解決策を探ることが彼らの仕事であり目的である。しかし、解決方法、解決策はいくつもあるだろう。その場合、環境問題をライフスタイルの一部として経験しているかどうかで、選択する回答が変わってくる。
例えば、サーフィン等を通して自然環境に接している研究者なら、上述したように環境問題に敏感になり、海岸保護と称してむやみに消波ブロックを設置したり防波堤を作ることは、海流を変え砂浜を消すだけでなく、そこに生息する動植物の生態系まで変えてしまうことを知っている。そのため、なぜ急ぎすぎる開発が問題なのかをより深く理解することができる。
また、私はバリ島在住だが、今年のインドネシアの乾季は、(独)海洋研究開発機構が提供する中期予報を見ると、海面温度が普段より高く、降水量が多いことがわかる※。サーフィンをしていると、天候や海洋のリズムに合わせて生活をするようになるので、実際に海水温度が高いことや、雨の降るタイミングが過去数年とは違っていることがわかる。風も6月の時点で、乾季の東風が吹いていない。実際に経験することで、環境問題を理解するための着目点の発見や、得られた情報の検証をすることができる。
さらに、実際に経験することが、環境問題研究者には根本的に必要である。科学は客観的であるべきと言われるが、環境問題研究は、環境に「良い」か「悪い」かの判断を下す基準を設ける必要があるので、主観的にならざるを得ない。そのため、環境問題に携わる者は、本当に自然環境を人生の一部として取り入れて、その対象に愛を持っているかどうかが問われる。そうでない場合、出てくる回答は環境問題を解決するためのものでなく、急ぎすぎる開発等との帳尻を合わせるための評価レポートになってしまう。昨今、環境問題を扱うことがクールだと思われているからか、ビーチとは無縁の、砂まみれになることも拒む「もやしっ子」環境問題研究者に会うことがある。彼らはコンピュータにしがみつきながら上手にレポートを書くかもしれない。しかし、そうしたレポートは、環境破壊と帳尻を合わす「環境合わすメント」になる危険性がある。

■定期的にビーチのゴミ拾いを行なう壱岐島ローカルサファーたち






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