2012年6月3日日曜日

書評:「社員をサーフィンに行かせよう」 ~じっくりと本物を作る~


社員をサーフィンに行かせよう―パタゴニア創業者の経営論
イヴォン シュイナード
東洋経済新報社
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Let My People Go Surfing: The Education of a Reluctant Businessman
Yvon Chouinard
Penguin (Non-Classics)
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前から気になっていたパタゴニアの創業者でありオーナのシュイナード氏によって書かれた「社員をサーフィンに行かせよう―パタゴニア創業者の経営論」を読んでみた。前働いていた所は、こんな感じの文化を持っていたので「そんな会社があるのか!」と疑いの気持ちはなかったが、成り行きやその理念と、「サーフィンに行かせる」とは直接関係が無い「環境問題への対応」や「企業の目的」など学ぶことがありました。

本の最初の3分の1はパタゴニアの歴史について書かれています。50年以上の歴史がある会社であるとわかる。そして、シュイナード氏はこの本を書くことに15年を要している。まずこれで、「じっくりと本物」を作る事が好きなのがわかります。

この本を読んで、読み返さずとも、2つの事が言い続けているのだと思いました:


  1. 結果ではなく、プロセスを集中する事
  2. 本物を求める事


そして、シュイナード氏の場合はそれがたまたま「アクション/ネイチャー・スポーツ」であり、「環境」であり、「最高品質のパタゴニア」であったのでしょう。

例えば、彼は登山などの危険なスポートの経験から、自分の限界を超えることは良しとしていません。自分の能力以上の速さで、「崖を登る時」や「会社を急成長させる時」、死が早く訪れるとしています。そして、シュイナード氏も禅道に影響を受けており、プロセスに集中することに関して、弓道を例に出しています。

例えば、弓道では、目的 ー的を射る事ー を頭からけしさり、代わりに矢を放つ動作の一つ一つに精神を集中する。・・・同じ考え方が、クライミングにも当てはまる ー登る過程に精神を集中させていれば、いずれは頂点に到着する。・・・もう一つこの禅哲学がぴったり当てはまる境域がある。ビジネスの世界だ。

プロセスに集中することは、以前に自分のブログでも書きましたが、 この方が精神的に楽だと思います。シュイナード氏はそれとは別に、彼はエベレスト山に登ることを例に上げて、「本当の価値」に付いて述べています。

山登りの過程もまた、ビジネス、人生の双方になぞれることが出来る。・・・ただ、頂点に達するだけなら、酸素なしで単独でエベレストに登ってもいいし、ガイドやシェルパに料金を払って荷物を運ばせ、クレパスに梯子を渡し、2千メートル近く延々と固定ロープを張り・・・登ってもいい。後者の場合、本人は酸素ボトルの目盛りを「三千メートル」に合わせて、出発するだけだ。・・・全過程を妥協していては、成長は見込めない。

パタゴニアは本物を目指すと決めたので、妥協せず「オーガニックコットンへの完全切り替え」や「売上の1%を環境に寄付」を始めたのでしょう。そこには企業としての、個人としての成長があったことでしょう。パタゴニアは営利企業ですので、物を売ることが目的であり頂点でしょう。しかし、真の価値がそれを成し遂げる過程 ー「環境問題」や「他の企業の見本になる」ー にあるのでしょう。そして、それに妥協していては「最高品質」という頂点に立てないでしょう。


本の題になっている「社員をサーフィンに行かせる」文化は、シュイナード氏が事業を始めた理由からきています。すなわち、登山やサーフィン等のアクション/ネイチャー・スポーツの合間をぬって生活費を稼ぐためだったと思います。だから、「遊ぶ権利をもらう代わりに、責任も持って仕事に取り組む」事、権利(Right)と責任(Responsibility)の話だと、本を読む前は思っていました。

しかし、それだけではなく、ここにも本物を求める理念が入っています。これらのスポーツを真剣に行っているからこそ、本物のスポーツ用品が作れるのだろうし、環境問題を肌で知ることが出来るのだろうし、しいては「地球が存在しない世界で、ビジネスは成り立たない」事がわかるのでしょう。

この本では多くの引用がありましたが、フランソワ・オーギュスト・ルネ・シャトーブリアン氏の引用が理念を説明しております。

人生の達人は、仕事と遊びの区別も、労働時間と余暇、心と体、教育と娯楽 の区別もつけない。両者の違いがわからないのだ。何をするのであろうと ひたすら至高の状態を求め、仕事か遊びかの判断は他人に委ねている。本人にしてみれば、常に両方を行っているようなものだ。

すなわち、仕事をする事もサーフィンもする事も、本物を追い求め、やると決めたら、あとは真剣にコツコツを行う。それを、他人が、仕事と呼ぼうが、遊びと呼ぼうが、関係ない。禅の老師に「仕事しか真剣に思えないのだろう」と言われたことを思い出しました。結果を考えずに、何ごとにも真剣にコツコツと行なっていったらどこかに行くことができるでしょう。



自分が環境の分野にいる意味を再確認させてくれる本でした。田舎育ちで、冒険とアクション・スポーツから環境問題に触れたのが私の理由です。これは、シュイナード氏と同じであったので親近感が湧き、最後まで一気に読んでしまいました。

「パタゴニアは株式を公開していないから怪しい」などいう人がおりますが、そういう人に読んでもらいたい本です。しかし、「IPOを目指せ」や「株価が一番大事」と言っている方たちには、考え方のフレームワークが違うので、理解が出来ないかもしれません。