2013年11月11日月曜日

フィリピン台風の被害から気候変動を考える~今後の台風、現在の対応、開発としての対応、そして「損失と被害(Loss and Damage)」~



スウェーデンの仕事で、フィリピンに気候変動・脆弱性のトレーニングで来ているのだが、その直前に今年最大で、もしかしたら上陸した最大の台風がフィリピンに直撃してしまった。被害の詳細は分からないが、1万人をこす死者が出ているかもしれない。東日本大震災の死者数と行方不明者数の合計が2万人ぐらいである事を考えると被害の規模がわかる。

明日話す事になるだろう「気候変動と台風の被害」についてまとめてみたい。まず、IPCCが出した極端現象に関するスペシャルレポート(SREX)には、地球温暖化によって台風の数が増えることについて「明確な証拠は出ていない」としています。

今回な、気候変動の脆弱性に関する議論です。ご興味のない方もいると思いますが、重要ですのでよろしくお願い致します。


この見解の元になったであろうレポートが世界気象機関から出ています。



このレポートでは複数のデータを使って、嵐の発生状況のトレンドを出しています。統計的に「10年でひとつ減る」トレンドを出しているのは1つのデータだけですが、全体に減少方向にあるように見えます。しかし、日本で台風とカテゴリされる最大風速が34ktのカテゴリ4と、国際的に台風とされる最大風速が64kt以上のカテゴリ5だけに限定すると、増えてきている可能性があります。しかし、これもデータによって違っています。


しかし、さらに詳しく見てみると興味深いことがわかります。南シナ海で発生する台風の数は減少方向ですが、フィリピン海での発生は増える可能性があります。そして、それに伴い、台風の進路も日本海又は太平洋に向かうものが増えてきます。



まとめると、地球温暖化によって勢力が強い台風が増える可能性があります。そして、それはフィリピンから日本と韓国に向かって進んでくる可能性が高まってきました。しかし、この見解には不確定要素が沢山詰まっています。つまり、はっきりしないということです。


こんな状況で、将来の台風への対策はどのようにしたら良いでしょうか。全ての対策は、人や金銭の資源の分配です。ですから、不確定な気候変動による台風に、資源を集中することはあまり良くないと思います。それでも、下記の二点に関しては確実に対応することが出来ます。

1)現在の脆弱性に対応する。

気象現象が大きく変わると今に固着する事は危険ですが、フィリピンなどでは今回の災害を含めて、現在も台風に関して脆弱であると言えます。同じ台風が日本に上陸した場合も、1万人の被害が出たでしょうか。私はそうは思いません。

なぜ同じ災害にあっても、ある地域は影響をうけやすいかを調べることは出来ます。そして、それに関して対応することが出来ます。例えば、今回は高潮の影響が大きかったそうです。月並みですが、避難を出来るような高台の避難所や、より多くの地域に避難を勧告できるラジオなどの仕組みをつけることで、次の台風に対応できるかもしれません。

2)現在の開発ニーズと合わせた対応をする。

気候変動の適応策には「開発へのメインストリーム化」が話されています。そして、適応の進め方を災害への対応を捉えるのではなく、開発の一環として考える議論もあります。

この場合、適応策を現在の開発ニーズに合わせてすすめることも考えられます。例えば、気候変動に関係なく、教育に対する開発ニーズがあるとします。この時、気候変動もしくは気象災害も同時に教育することにより、開発へのメインストリーム化が達成されます。もしくは、台風の発生に関係なく、道路整備のニーズが有るとします。道路を整備することにより、台風が来た場合により素早く、避難出来るようになると考えられます。

教育に関しても、道路整備に関しても、重要な事は、「台風の気候変動がなかったとしても、もともとニーズが有ったもので無駄にはならない」ということです。

おまけ:「損失と被害(Loss and Damage)」の対応

ちょっと蛇足ですが、その他、最近では、適応策でカバーできない「損失と被害(Loss and Damage)」にどのように対応するかも議論され始めています。今回のケースも、フィリピンの現状からの変化を考慮して、適応策だけでは対応できない気がします。その対応とは、気候保険や災害ボンドになると思います。これは、以前は適応策の枠組みで議論されてきましたが、「損失と被害(Loss and Damage)」へのツールとして考えられてきていると思います。この辺は今ポーランドで議論されるのではないでしょうか。気象の保険は個人的にはすごく興味を持っています。

過去にこんなことも書いています。

2012年10月24日
チョット前に、「天候インデックス保険はアフリカの貧困農家に有効か、気候変動の適応策として有効か」、質問を受けたので、その事を記載しておこう。元の英語と自分で行った和訳を載せておきますね。 天候インデックス保険は、数理モデル ...
2009年10月02日
このニューヨークタイムスの記事はエチオピアのマイクロインシュランス(保険)を扱ったもので、僕も少なからず関わったものだ。この保険は年間約5ドルで来年の種を保障する。保険は気候モデルに連動しているおり、周辺で干ばつが何かの ...
2009年11月21日
その村人にどの様な保険が必要かといった調査が以前行われた。調査対象となった村人によると、一番の問題点は農作物は食料である。その為、一番必要とされた保険はやはり、農業関係の保険であった。健康などへ関しての保険のニーズ ...

今回は専門的な話になってしまいました。わからないことがありましたら、ご連絡頂いて構いません。