2011年1月11日火曜日

UNDPが気候変動の脆弱性評価ガイドブック ~モデルは必要なのか~

  "Guidebook for Planners on Mapping Climate Change Vulnerability and Impacts Scenarios at Sub-National Level"


UNDPが気候変動の脆弱性評価を地図を使って分析する方法のガイドブックを出したので自分のモデリングに関する考えを混ぜながら、レビューしてみます。どちらか言ったら、自分の考えの方が殆どになってしまいました。レポートは正式には4つのパートに分かれているが、私は大きく分けて、3つに分かれていると思う:1)脆弱性評価のプロセス、2)脆弱性評価の方法、3)脆弱性評価の地図を元にした、適応策の分析。ここでは、特に1と2について書いてみる。

このレポートでは脆弱性を以下の様に定義している:

vulnerability (脆弱性) = exposure to climate hazards and perturbations (気候災害に対する露出)x sensitivity (敏感性)- adaptive capacity (適応能力)

「敏感性」と「適応能力」は表裏の関係なので、これをひとまとめにしている場合もあるが、一般的な定義である。「気候災害に対する露出」と「敏感性」を加えたものは、災害分析と言われている。適応能力が引き算であるか割り算であるかは、議論の余地があるが、「適応能力」が「災害」からのインパクトを和らげることを調査することが、脆弱性分析になる事に国際的に異議はないはずである。

例えば、「気候災害に対する露出」の分析とは、気温の上昇、降雨の変化、海面上昇などばどうなるか分析することである。「敏感性」の分析とは、現在の状況がどれだけ、これらの災害や環境変化に敏感であるかを調べる事である。「適応能力」の分析とは、変化に対して社会がいどれだけ変化出来るか調べることである。

このレポートは脆弱性評価の地図を作るには4つのステップを踏む必要があるとしている:

  1. 過去と現在の「気候災害に対する露出」のトレンドとリスクを分析する
  2. 過去と現在の「気候災害に対する露出」にたいする「敏感性」を分析する
  3. 未来の「気候災害に対する露出」のトレンドとリスクを分析する
  4. 未来の「気候災害に対する露出」にたいする「敏感性」を分析する

最初の二つのステップではは現実の確認されたデータを分析するため、データとモデルのエラー以上の不確実性は入り込まない。しかし、3と4のステップでは、「前提条件に基づいた、専門家の意見かモデルからの予測が入るので、不確実性が大いに入ってくる」。ここは大事なのでもう一度言ってもいい:

前提条件に基づいた、専門家の意見かモデルからの予測が入るので、不確実性が大いに入ってくる」

そして、この不確実性は決して消えるものではない。その不確実性の幅を少しでも減らすために、コンピューター・モデルを作るときに前提条件を建てるのである。その為、その前提条件が妥当であるかを調べることが重要になってくる。前提条件が妥当でない場合、間違いなく信ぴょう性のある結果は出てこないであろう。前提条件がまともであったとしても、モデルの未来予測は不確実性が非常に高い。

日本語ではおなじになってしまうが、予測には「existence projection」と「forecast」では大きく異なってくる。例えば、農民の将来の気候変動に関する適応能力を評価する必要合った場合、「農民の適応能力が上がる可能性が存在する事」を予測(projection)する事はさほど難しくはないだろう。しかし、それが何時どれぐらい上がるかを予測(forecast)するかは非常に難しい。コンピューター・モデルによる後者の予測が不可能であるならば、モデルが出来ることは前者のprojectionである。しかし、この場合、モデルが必要であるか疑問の余地がある。

Projectionが目的ならば、地域住民、政策決定者、有識者へのヒヤリングで同じ様な結果が出てくるのでないだろうか。この場合、コンピューター・モデルの使われ方は、意思決定のロジックが正しいのか確認などの方が有効だとおもう。その為、そのロジックを確認できなくなる程、モデルを複雑にする必要は私は必要ないとおもう。

一つ例を上げると、フランスが海岸沿いの脆弱性評価の分析を行った時、複雑なモデルを使う前に、20名ほどの関係者を集めて、調査の目的と前提条件を明確にしている。そして、複雑なモデル(洪水モデル)に不確実性が大きい場合、経験則や専門家の意見を大いに取り入れた。そして、一番大事なことは、もし設定してある前提条件に変更が合った場合、それに合わせて調査を変更していける仕組みを作ることだと考えられる。

不確実性だから、何もしないでもなく、不確実性だけど、複雑なモデルにこだわるのでもなく、そこは柔軟に出来るところからやっていこうという話である。この場合はモデルは、絶対的な意思決定をしてくれるものでもなく、意思決定サポートシステムでもなく、意思決定の条件や論理をチェックする仕組みであると考えている。

2011年1月4日火曜日

国連開発プログラムの気候変動適応策を探るツールキット ~因果関係分析の適用~

国連開発プログラムが出している。気候変動適応策のガイドラインが評価に値するのでまとめてみる。


"Toolkit for Designing Climate Change Adaptation Initiatives"
Published by the United Nations Development Programme, November 2010.
This guide supports the design of measurable, verifiable and reportable adaptation initiatives. It provides step-by-step guidance for the design of climate change adaptation projects.



この手のガイドラインは方法論を明確に書いていないことがよくあるが、このガイドラインは方法論の概要を書いてあるので、そこから進めることが出来る。この方法論が使われる背景となる理論も、付け足して説明してみる。

このレポートの方法論はプロジェクト・サイクルに基いて考えられており、サイクルは6つに分かれている:


  1. 問題の定義
  2. 因果の特定
  3. 基準となるレスポンスの特定と明確化
  4. バリアの特定
  5. 予想される結果の構築
  6. 評価とチェックリスト


内容は、特別変わったことでもなく、一般の開発プロジェクトに似ている。そして、そこが重要な事である。このガイドラインは気候変動適応策は開発の一環としているのだろう。気候変動を開発プロジェクトに一体化するメインストリーミング化は、一つの流れなのでこれでも良い。ただ、そう捉えていない人たちもいるので注意が必要である。


開発を中心に捉えているが、更に、そこからベースを何にするかによって評価・分析方法が変わっている。レポートで取り上げられているものは:

  1. 災害ベース・アプローチ:現在の災害への脆弱性とリスクをもとに、将来の脆弱性がどのように変化するか推定する。それを元に適応策をさぐる
  2. 脆弱性アプローチ:現在の脆弱性のしきい値がどの気候変動シナリオで弾けるか考える
  3. 適応能力ベース・アプローチ:現在の適応能力を測定して、そこから気候変動シナリへの弱点を探る
  4. 政策ベース・アプローチ:気候変動下の政策を検証する。



この4点は似ているようで、違っている。まず、国連の定義では、脆弱性とは、災害に対する露出と適応能力のコンビネーションによって定められるとしている。1と3では、脆弱性と言っても、それぞれこのコンビネーションの片方に軸が乗っていることになる。それから、脆弱性も現在の脆弱性と将来の脆弱性を分けて考えられる。このレポートを読む限り、2は現在と将来の脆弱性を分けて考えていないようだが、本来分けるべきであろう。このレポートはこの4つのうちのどれかに焦点を当てて書かれていないが、開発を中心に考えてあるので、リストの下の方のアプローチに合わせて書いてあると考えられる。


気候変動を開発プロジェクトにメインストリーミング化する流れの話なので、ツールの必然的に開発問題に合った物になる。この6ステップのサイクルで中心となるステップ2(個人的感想)では、開発プロジェクトで使われる因果関係分析が行われる。各国色々違いがあるが、大体に多様な分析方法となり、下記のようなグラフが出来上がる。



木グラフの下の要因が上の問題要因の原因に成っている事を示している。そして、右のグラフでは細分化された要因群を、グループ化することに問題を整理している。この木グラフは因果関係に基づいているので、全ての関係はQ&Aの方針で説明できないとおかしい。

このステップ2ができたら、後は肉付けの作業である。ステップ6のチェックリスト以外は、その後実用的な方法論も出てこない。まだ、適応策の分析方法が画一されていないので、国連開発プログラムが開発プロジェクト手法を適応策の評価手法として明確化したのは意味があるだろう。ただ、開発プロジェクトも評価も因果関係分析では、包括的に問題を捉えられないとか、ダイナミックに問題を見れないなどの批判もあるので、因果関係分析で画一される事もないだろう。

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