2014年1月14日火曜日

標準化の難しい気候変動・適応策の途上国と先進国における違い。~適応策の監視と評価方法(M&E)の比較分析~


 Monitoring and Evaluating   Adaptation at Aggregated Levels:   A Comparative Analysis of Ten   Systems



このレポートは、ドイツのJICAのような組織であるGIZが10カ国と地域で行われた気候変動の適応策プロジェクトの監視と評価方法(M&E)を総合的に比較分析したレポートである。分析された10カ国・地域とレポートの名前は以下のとおりである。


  1. France: Monitoring and Evaluation of the French National Adaptation Plan
  2. Germany: The Monitoring System of the German Adaptation Strategy
  3. Kenya: Kenya’s MRV+ System under the National Performance and Benefit Measurement Framework of Kenya’s National Climate Change Action Plan (NCCAP)
  4. Mekong River Commission: Lower Mekong basin-wide monitoring and reporting system on climate change and adaptation
  5. Morocco: Adaptation Monitoring as part of the Regional Environmental Information System in Morocco
  6. Nepal: Results based monitoring for climate adaptation in Nepal
  7. Norway: Learning by doing for measuring progress in adaptation in Norway
  8. Philippines: The Philippines National Climate Change Action Plan Results-based Monitoring and Evaluation System
  9. Pilot Program for Climate Resilience (PPCR): The Monitoring and Reporting System of the PPCR
  10. United Kingdom:  The Adaptation Monitoring and Evaluation Framework of the United Kingdom




気候変動二酸化炭素の削減により食い止めようとする緩和策にはMRVのような参加国が同意している評価方法があり、ISOにより国際基準として決められた約束事ことがある。しかし、気候変動が起こってしまった世界に対応するための適応策には、そのような標準化されたものは存在しないし、ない方が望ましいと思う関係者多い。これは、別の機会に書くとして、標準化しないながら評価の整合性を考える方は自然な流れである。

適応策は一般化が難しい。例えば海が無い所では海面上昇や漁業を考える必要性はない。また、途上国と先進国では食糧問題などそもそもベースラインが違うので、それを比べることも難しい。その為、ノルウェー以外は何らかの指数を使っているが、それは各国で統一が取られてはいない。 (Table 6) (P.18)




例えば、気候変動の評価といっても変化そのもの指数に入れているのは、メコン流域のレポートだけである。そして、フランス、ケニア、ネパール、中国のレポートは気候変動からのインパクトや災害の可能性すらが全く考慮していない。しかし、これはcontextual vulnerability(文脈的な脆弱性)という考え方で、最近ではIPCCのスペシャルレポートにでも書かれていることだ。だから、気候情報のない適応策の国連の公式定義とも取れるので、このタイプのM&Eとしても許されるはずである。




その他の興味深い内容は、途上国のM&Eは説明責任に重点を置いているが、先進国は気候変動のレジリエンスの高まりをモニターすることに重点を置いている。これは社会基盤やモニタリングを監督する政府の発展度合いの違いから来ていると思われる。 (p.10)

最後にM&Eの進め方を示している。まずはじめに、手の終える大きさの地域で特定のセクターから始めて、それから徐々に他の地域とセクターに増やしていくことが良いとしている。これは私もJICAのプロジェクトで学んだアプローチだ。適応策はクロスセクターなので、マルチセクターで評価する方が望ましいが、アプローチとしては一つずつ進めることが妥当だと思う

適応策のM&Eを学ぶには中級レベルの参考書になると思う。

2014年1月13日月曜日

映画評:「マーヴェリックス/波に魅せられた男たち [DVD]」 ~「乗るか乗らないか」、「落ちるか落ちないか」、もしくは「生きるか死ぬか」の純粋な二者択一の世界~





20年前の、あのオーストラリアの自転車一周の後に、少し古い英語のサーファー・マガジンを紀伊國屋で買って来て、英語の勉強にテキストにしていた。その時、このバカでかいマーベリックスの波からワイプアウトする写真を見た。もしかした、まだこの雑誌は自転車日記が収まっていた書棚にまだあるかも知れない。



「ジェイのように生きろ(Live like Jay)」もカリフォルニアでサーファーの合言葉になっているとも、聞いたことがある。


しかし、それがこの映画「マーヴェリックス/波に魅せられた男たち(原題: Chasing Mavericks)」のジェイ・モリアリティであるとは、映画の最後の30分まで気付かなかった。





  マーヴェリックス/波に魅せられた男たち [DVD]


この映画はカリフォルニアに実際に存在するマーベリックスという大波がまだ一部のサーファーにしか知られていなかった時代に、高校生のジェイがその波に挑戦するスポ根映画であり、家族愛や友情をおりからめた青春ストーリーでもある。

奥さんも「うるっと涙ぐんでしまった」っと言っていたので、サーフィンしない人でも、甘酸っぱい青春スポーツ映画として楽しめるはずだ。しかし、僕は自分の経験と重ねて、心臓バクバクの純粋なサーフィン映画として引き込まれた。

普通のサーフィンは波の上をキャンパスとして弧を描くスポーツであるが、映画でジェイの師匠のフロスティが云うのように、大波のサーフィンはサバイバルを突き詰めるライフスタイルだと思う。大波に乗る時には、「乗るか乗らないか」、「落ちるか落ちないか」、もしくは「生きるか死ぬか」の純粋な二者択一の世界だ。

僕はマーベリックスの様な波には乗ったことは無いが、ビッグウェーブ(大波)サーフィンはどのレベルのサーファーでも語れることだ。初心者には、1フィート(30cm)の波でもビッグウェーブで、「生きるか死ぬか」の二者択一でサーフィンをしている。もう少しうまくなれば、波の上で曲がることが出来るようになるが、身長より大きい波になると、とにかく乗って、落ちないように、低く、速く波と対峙するすることになる。



これが昨年私が乗って写真に残っている一番大きい波だ。



この時の事は良く覚えている。この時は、二者択一の思いだけで雑念は全く無い。私はこの感覚がたまらなく好きだ。真の自由とはこの瞬間だと思う。恐怖心で心がいっぱいになり、それを乗り越える為に全力で頭を回し、最善のポジションを決める。後は、腹をくくって全力でスピードを付けて波に乗る。最後に、ビビると絶対に乗れない。これを書いているだけで、冷や汗が滲んてくる。

恐怖心は、必ずそこにあるというか、なくてはならない。


2014年1月12日日曜日

書評:「木造革命」 ~燃えなく、丈夫で、気候変動にも優しい木造の家を建たくなる本~ 


  木造革命


「日本は26年、イギリスは141年」



これは何だと思いますか。「住宅の平均寿命」だそうです。この「木造革命」に書いてあった興味深かった最初の逸話です。

この本を読んでみようと思ったのは、バリ島のコンクリートの建物があまりにも長持ちしないためです。2年しか経っていない建物でも古臭くガタが出ているものがバリには多い。これらは典型的な途上国の突貫工事の建物です。インドネシアのコンクリート住宅は10年もしたら、建て替えでしょう。これは、日本の26年どころではありません。

しかし、インドネシアの木造建築は長持ちしているものがたくさんあります。私が今住んでいる家も、150年物と80年物の木造建築です。


法隆寺を修復した宮大工の西岡常一氏は「コンクリートは50年、木は千年」と言ったそうですが、インドネシアもこれをダウングレードしてきれいに当てはまる状況です。

この本は、木造建築が、「燃えやすい」、「強度がない」、「建設コストが高い」等の誤解されている部分をインタビューによって、説明しています。これらの誤解からか、日本政府は4階建て以上の木造建設が危ないからと2004年まで禁止している。考えてみればこれはおかしな話である。法隆寺など五重の塔、中国の7重の塔などは何百年もそのままの状態残っている。震災でも木造建築の方がコンクリート建設より残っているという話もある。もちろん全ての状況がこのようであるとは限らない。きちんと作られていなければ、コンクリートだろうが木造建築だろうが、よい建物にはならない。

例えば木材は燃えない処理をすることも可能であり、火事が起こったら、熱でもろくなった鉄筋より、燃えない木造建築の方が安全である。インドネシアでは、質の良くないコンクリート建設が横暴しているので、木造建築がコンクリートより安いことはないが、この本によると、合わせ木材等の技術革新から巨大な建造物をコンクリートの建設よりも安く作る方法があり、実際に公共施設として、作られているらしい。

それになぜ日本国内の林業が衰退していったかの説明もしている。私も以前に調べたことがあるが、林業が衰退した理由は政府の保証金と工業化の問題である。この本ではスウェーデンの事例を紹介している。スウェーデンの林業は平地で、山地の林業である日本とは比較できないという人もいるが、
山岳部の林業であるオーストリアでも、充分工業化が成り立つだから、工業製品を作っている日本できないわけはないだろう。それから、日本政府の苗木の補助金もおかしな話である。日本の補助金は苗木を植えた分だけ、支払われるため木がぎゅうぎゅうづめに植えられ、その後、間引きして間伐材ができる。これは二重に無駄である。木材にしない苗木を植える無駄と、効率的に利用されていない間伐材を作るという無駄である。無駄な苗木を植えない海外では、そもそも間伐材の余剰が発生しない。





それから、植林された木材と使うことは悪いことではない。成長している木は二酸化炭素を固定化し、成長が止まった木を家具や木造建築として使うことは二酸化炭素そのまま固定化した状態で残すことになる。そして切り取った土地ににまた植林すればよい。また、荒れ地に植林することにより、土地が豊かになり、水や生物の資源も取り戻すことが出来る。以前書いたが、インドネシアのガジャマダ大学が行ってる植林プロジェクト(Wanagama)は、養分が少なく土地の水分保有量も少ない場所で40年前から行なわれているが、森として再生している。そして、地下水を供給できるようになり、土地の生産性も向上したといわれている。



この本に話を戻すと、学術的に検証されている部分は多くは無いし、構成が一貫していないと思うが、今の木造建築の技術とそれを取り巻く問題点を、多くのインタビューを元に書かれており、信頼出来そうな内容になっている。実際にこれらの技術を使って家を建てたいと思うなら、連絡先が書いてあるので、そこに連絡することもできる。

大手ハウスメーカーに、ツーバイフォーの家を建ててもらおうと思っているのなら、一読しておいて損はないと思う。

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