2011年11月29日火曜日

バリ島の稲作農業 ~スバ・灌漑システム~

今在住しているバリ島の稲作農業を説明したいと思う。バリというと、ウブドに代表されるような段々畑の稲作農業を想像する人も多いだろう。




このような、稲作農業ははスバ(Subak)と言われる灌漑システムで管理されている。スバは1000年以上の歴史があり、儀式化されておりバリのヒンドゥー教にのとった農場カレンダーに従って、稲作が営まれている。

灌漑システムに参加している農民達は、カレンダーに従い、日本の村社会の掟のようなものに従い、水資源を有効活用している。長い年月により、ここの意思決定が、組織の掟のようになり、それが複数の組織のネットワークになり、水資源がより多くの農民に使われるように自主的に管理されるようになった。

管理されているのは、水だけでは無い。例えば、田植えに時期を同時に行うことにより、害虫の発生を最小限にする事を試みている。インドネシアでは、一年間で三毛作も出来る気候であるが、それをすると、害虫が点々と田んぼを移り渡る事ができるので、害虫が大量発生する可能性が高まる。「何を植えるか」は「何毛作にするか」も、スバで決めて、メンバーはその決定に従うことになる。このスバと言われる灌漑管理グループは2300以上あり、その内の
65%が稲作に従事している。


現在は農業の工業化もバリに入ってきているので、1000年前とは同じように管理されては居ないが、まだこのスバの仕組みはバリの農業では欠かせない物となっている。今インドネシア政府はこのスバをユネスコの無形文化遺産に申請している。最終決定は来年に持ち越されている。

2011年11月26日土曜日

結果指向とプロセス指向 ~楽に成し遂げる方法~

前回、「結果指向とプロセス指向」の話を気候変動の適応策で書いたが、普通の生活でも応用できる話です。スポーツのトレーニングの世界でも使われているコンセプトです。というか、多分こちらの方が先だっただと思います。

それでは、説明してみます。

例えば、マラソンをやっている人が、速く走れるようになりたいと思っているとします。本番の大会に出る事で、速く走れるようになったかどうかわかりますよね。

だから、結果指向の人は、「大会で〇〇位になる」等が目標になります。この目標は最終的な目標ですが、前回書いたように、達成できるかどうかは練習の結果だけではありません。もしかしたら、その時あなたは病気で体調が良くなかったりとか、たまたま凄いアスリートの集団が大会に出ていたからで、良い成績が出せないかもしれません。その為、どんなに練習しても、目標に達しないかもしれません。もし、目標が達成できなかった場合、「なにくそ!」とさらに頑張るかもしれません、又は嫌になってマラソンをやめてしまうかもしれません。どちらにしても、過大なプレッシャーがかかる事になります。

変わって、プロセス指向の人は、「毎日5キロ走る」等が目標になります。この目標は最終的な結果に左右されません。その日一日5キロ走れたら、その日の目標は達しれたことになります。大会でどういう結果になるかの期待はしませんし、悪い結果になったとしても、それはプロセス指向の目標とは関係ない事です。しかし、毎日5キロ走っていたら、当然マラソンの実力はついてくるはずです。その為、本番の大会で速く走れる様になっているはずです。


結果指向の人が、「大会で優勝する為」に毎日5キロ走っていようが、プロセス指向の人が「只」に毎日5キロ走っていようが、大会の結果は多分同じになるでしょう。赤の他人が見たら多分、この二人に違いはないでしょう。しかし、ストレスやプレッシャーは多分大きく違うと思います。プロセス指向でトレーニングしている人の方が、長続きして、スランプからの脱出も早いと聞いた事があります。

メジャーリーグで活躍のイチロー選手も、過去に以下の様な発言をしたのを読んだことがあります(うる覚えですが)。

「偉大なことをするには、コツコツとやるしか方法は無い。」
「打率は追い求めません。安打数にこだわるのは一つ一つの積み重ねだから」

まさに、プロセス指向の発想だと思います。彼は、毎日の行動をロボットの様に規則正しくするそうです。そう、コツコツとプロセスを積み上げます。

言われなく、人間として結果は気になるところです。しかし、それは悩んでも自分のコントロール外の事だと思います。それなら、毎日毎日ある意味ロボットの様にコツコツとプロセスを重ねていき、毎日毎日目標を達成して、それを褒めてやったほうが、楽かもしれません。結局、結果は同じなのですから。

これは、他のスポーツでも言えることでしょうし、仕事でも同じかもしれません。毎日毎日コツコツとプロセスを重ねていったら、きっと何かを達成しているはずです。


追記:もう一つ、毎日毎日コツコツと続ける最大のコツは、一度中断しても、必ず再開することです。そう丁度、この不定期ブログの更新頻度の様に。

2011年11月21日月曜日

結果指向とプロセス指向の評価方法 ~気候変動の適応策を評価する~



適応策の考えに、結果指向(Result-oriented)とプロセス指向(Process-oriented)がある。この考えは、特に適応策を評価を考えるために作られた。OECDAdaptation toClimate Change: International Agreements for Local Needs両者の違い良くしめしている。





結果指向の目標は、適応行動の最終的な目標を定義する。この方法の利点は、関係者が同意する特定の結果を明記することにより、適応行動を達成する事です。しかし、実際には、目標として掲げられた結果の達成または未達成と、それに向けた行動の直接的な結果では無い可能性があります。適応行動や適応に関する不作為とは全く無関係かもしれない他の要因が、最終的な結果の達成に直接的かつ重大な影響を及ぼす可能性があります。

例えば、ある地方の干ばつに効果的なイネ種子を適応戦略として開発・普及させたとしても、その後、政治的または干ばつ以外の気象現象であるハリケーンが発生して、結果指向の目標は達成されない事は容易に考えつきます。逆に、適切な適応策がとられなくても、特定の年または期間内に有利な気象条件に達成されたときに、稲作は豊作となり、結果指向の目標は達成されてしまうことはあります。



プロセス思考の目標にも、いくつかの利点があります。まず、簡単に監視できますそしてこれらの目標を達成するための進捗状況を簡単に評価することができます。

例えば、「気候変動からの影響を最小に留める」と結果指向の目標を掲げる代わりに、「気候変動の予測と適応策を政策に取り組む」とプロセス指向の目標を掲げる事が出来ます。

これらの目標達成には、正しいことを行う、正しい方向に移動している達成感を得ることが出来る。かと言って、このプロセス指向の目標達成は、気候変動への適応についての期待される結果達成されることを意味しません。その為、選択されたプロセスが、最終的な「結果」の目標を達成につながるかどうかを注意深く議論し監視し続ける必要があります。


どちらの目的が良いのか、議論され続けています。プロセス指向の適応策の評価が好まれるの理由の一つは、気候変動に大きな不確定要素がある為です。上に述べたように、稲作や水の管理などには、気候変動だけでなく、政策やその他の地域的な変化がある事を忘れてはいけません。

2011年11月18日金曜日

環境やら国際協力やらの大学入学の相談を受ける時の返答

時々、環境やら国際協力やらの大学入学の相談を受ける。

その時は、「これらは分野であって、科目では無いから、学部レベルでは工学、経済、法律、生物等の専門分野を学んだほうがいいよ」と答えている。環境は国際協力を学部レベルで教えておられる方には失礼だが、環境やら国際協力では、自分のいかせる技術を身につけて、それから開発の現場で働くなり、環境の修士コースで、これらの分野で応用するのがいいと思う。

修士コースは2つのタイプに分けられると思う。


  1. 更に専門化する博士課程への準備コースとして、「学部より狭い範囲を深く学ぶ」
  2. 学部で学んだことを実務に活かすため、又は専門化する博士課程への前に、「分野を横断的に、広い範囲を浅く学ぶ」


1は工学、経済、人類学などを学んだ学部生が、その分野でさらなる学を身につけようとする場合で、2は工学や経済などを学んだ学部生が、環境や国際協力の分野で活躍しようと思っている場合にふさわしいと思う。そう、環境学や国際協力を専門にするとは、自分が議論できる役立てる立ち位置をしっかり持って、環境や開発問題に取り組むことである。何の専門性もなく、広く浅く環境や国際協力の分野を知っていても何の役にも立たないだろう。

現場に出ずに、学問の道を極めようとしても同じである。学部で環境学を先行したアメリカ人をオックスフォードで受けもっと事があるが、これといって専門性を持っていなかったため修士論文を書くのに苦労していた。博士課程に進むのではあれば、もっと苦労するだろう。工学、経済、法律、社会学、人類学などの深い立ち位置を持っていない状況で、書かれば学術誌はニュースの記事の様な出来である事が多々ある。


環境学に来るのはウェルカムだが、出来れば大学院からで、学部では別の下準備したほうがいいと思うよ。

2011年11月6日日曜日

未来への割引率がマイナスで有るべきかもしれない理由 ~気候変動下での、地球共同体の割引率~

ここで述べたことを説明しようを思う。




経済学 (〈一冊でわかる〉シリーズ)
パーサ・ダスグプタ
岩波書店
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上で述べているように、この本では、パーサ・ダスグプタ氏がマイナスの割引率の可能性を気候変動の分野で、日本語で説明している。気候変動に対しての記述は、正確ではない部分もあるが、そこはちょっと古い経済学の本ということで目をつぶろう。

154ページから、気候変動での割引率について記載せれている。まず、経済学者がどのように、意思決定をするか現実の例を上げている。


「2004年に著名な経済学者8人がコペンハーゲンに招かれ,
世界共同体が500億ドルを5年間で使っとしたときの最も有効な使
い方について助言を求められたとき彼らは10個の選択肢の中で
気候変動を最下位に置いた.(p.155)」


なぜ、このような結果になったかと言ったら、それは、将来の費用と便益をプラスの割引率で計算したからだ。これは、経済学を学んだ人でなくても、「普通」な事である。今日の1万円もらうとの、来年一万円をもらうのでは、今日の一万円もらったほうが、安心だし満足する。つまり、今日の一万円は、来年の一万円より価値があることになる。別の言い方をするなら、今日の一万円もらって使うのを諦めるなら、来年は一万円以上貰う必要がある。だから、お金を貸すときは、プラスの利息を付ける必要がある。これが「資本の機会費用」と言われることである。

気候変動は数十年先の話をしているので、気候変動対策に今お金を投じても、将来の見返りを現在の価値に直すと、小さくなってしまう。例えば、年利5%を割引率として、50年後に百万円の利益を出すものは、現在の価値に直すと、87万円程度になってしまう(10,000,000/(1 + .05)^50)。もちろん、気候変動の信ぴょう性やプロジェクトの成功度なども本来加味するべきだが、本書ではそこは議論していない。注目しているのは、このプラスの割引率は「普通」なことである。


パーサ・ダスグプタ氏はその「普通」な事に、2つの点から議論している。

    1. 地球共同体がある便益を今性急に欲しがっているか、そうでなければプラスの割引率は適切か?
    2. 正義と平等のもとで世代聞で平準化すると、プラスの割引率は適切か?.


    まず、一つ目の性急さに関して。今の利益に集中するのであれば、プラスの割引率は妥当である。しかし、ダスグプタ氏は、今日存在しないというだけで、孫世代やひ孫世代を支持しないのは、将来世代を差別する政策でうけいれられないとしている。


    割引率がプラスである理由のもう一つに、1人当たり消費が今後も上昇して、豊かになっていくと仮定しているからである。今後、仮に気候変動が深刻化した場合、今後の成長は望めるだろうか。プラスの割引率を使っているという事は、「気候変動は大した影響を及ぼさない、だから成長は止まらない」と言っているのと同じである。つまり、気候変動には不確定要素が大きいが、その「問題なし」のシナリオだけを、仮定して経済モデルを廻しているのである。


    別のシナリオでは、将来の成長が鈍化して、一人あたりの消費が減ることも十分に考えられるだろう。その場合、未来世代との平等を考えるのなら、将来の使益を割り引くのではなく、増やして計算する必要があるだろう。




    ダスグプタ氏はその説明の為、以下の様なシナリオで計算している。



    「…今後50年間,地球全体のl人当たり消費が年間0.5%ずつ増えていき,その次の100年間にはl年当たり1%ずつ減っていくというシナリオを考えよう。このシナリオの下では、地球共同体は、将来消費の便益を今後50年間はl年当たり1.5%(0.5%の3倍)で、その次の100年間はl年当たりマイナス3%(マイナス1%の3倍)で割り引くべきである。簡単な計算をすれば、今から150年後に行う1ドル分の追加的消費は、今日の時点での9ドル分の追加的消費と同じ価値を持つことが分かる。別の言い方をすれば、地球共同体は、 150年後に1ドル分を追加的に消費することで便益を得るのと引き換えに、今日の追加的消費9ドル分を諦めてよいと考えるべきなのである。(p.159)」





    一つここで気を付けたい所は、ダスグプタ氏が話していることは、「地球共同体」であって、「民間の投資家」では無いことである。資源としての空気がオープン・アクセスで在り続け、商業銀行の利子率がプラスでありなら、そのまま割引率はプラスでありつづけるだろう。大気の排出が心底規制されるのであれば、この仮説の正当化されないだろう。もっと言えば、ダスグプタ氏が話しているのは、「こうあるべきだ!」であって「実際こうである」ということではない。ちなみに前者をNormative Economicsで後者をPositive Economicsと言う。


    話を元に戻そう。ダスグプタ氏の説明はここで終わっているが、マイナスの割引率を実験経済学で調べている学者もいる。Hyperbolic discountingというが、最後の例の様に、最初はプラスの割引率だが、もっと先の将来はマイナスに転じる割引率である。Wikipediaの例にならうと分かりやすい。たとえば、今の五千円か一年後一万円の選択肢を提供されたとき、多くの人々は即時の 五千円を選択する。しかし、5年後に五千円と6年後に一万円の選択与えられたほとんどの人は、実質的に同じ選択肢であっても、6年後に一万円を選択する。


    倫理的なトピックで議論の余地は大有りですが、意思決定は面白いですね。


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