ちょっと時間が経ってしまいましたが、
1回、
2回、
3回、
4回との続きです。今回は、前回の結果を脆弱性を使って再度考えてみましょう。
脆弱性を使って再考慮する
再度述べますが、「脆弱性(vulnerability)」とは、「暴露度(exposure)」、「感度(sensitivity)」、「適応能力(adaptive capacity)」の組み合わせによって決まります。
コメ生産に影響を与える要因を生物学的に見ると、気温、水量、CO2濃度が考えられます。もう少し、マクロ的に見てみると、土地利用、年間作付け回数(毛作数)、農業技術が考えられます。最初の生物学的に影響する要因は、気候や気候関連の災害に関連し、脆弱性の「暴露度」と見ることができます。そして、マクロ的、社会的な要因は、直接気候と関係はなく、「適応能力」に関係があると考えられます。社会的な適応能力は、気候変動の暴露度や感度とは無関係かもしれませんが、コメの生産を助けるという意味では、無視できない要因です。
時間・時期的感度(Sensitivity)
インドネシアのコメ生産の増加速度は下がってきていますが、生産量は順調に伸びています。しかし、エルニーニョやラニーニャ年には、生産が不調になる傾向にあります。
エルニーニョ年には、バリの雨季がおくれ、乾季がより乾燥する事により、降水量が大幅に減少します。
その為、適切に田植えの時期を考えないと、雨季の稲作には高いリスクが生じます。同じように、適切な品質の選択をしない場合、乾季の稲作もリスクが生じます。この場合、どちらのリスクが高いのでしょうか?雨季か乾季か、どちら季節が気候災害に対して感度が高いのでしょうか?
雨季の1ヶ月遅延は、東ジャワとバリで11%でコメ生産を減少させ、4月から6月の降雨量の20%減の影響は、作付け面積の2%を減らすとの報告があります。
「雨季の遅延と乾燥した乾季」を「暴露度」とすると、「雨季か乾季の影響の大きさ」を「感度」と考えられます。
同じ単位を使っていないので、一概比べることができませんが、この場合、「雨季の遅延」の方が、影響が大きいように思えます。この「時間的な感度」を考慮することにより、どの様な対策がどの時期に必要かわかります。
空間的感度(Sensitivity)
「感度」は空間的にも考えられます。例えば、バリを地域別に見ると、北部と東部以外は、農地面積密度は20%を超えています。特に農業が盛んなタバナンとギャニャールでは、50%近い土地が農地です。バリ州農業局の方のお話を伺うと、「農地が20%を超えた場合、気候の農業への影響を真剣に考える必要があるのでは無いだろうか」との意見が聞かれました。
その為、バリ島の多くの地域で稲作に対する気候変動への「感度」が高いと言えるでしょう。また、もっと単純な見方をすれば、「水田がなければ、どんなに干ばつがあったとしても稲作への影響は無い」でしょう。
下の図の最初の2枚は、水田の土壌・気候の適合性の移り変わり示しています。丸で囲った部分は、降雨量が減ることにより、稲作の適合性が下がると見られる地域です。最後の一枚は、肌色で水田の場所をしめしてあります。丸で囲った地域には、水田がほとんど無いことがわかります。つまり、土壌・気候の適合性は降雨量が減少する為に「暴露度」が上がるが、水田が無いために「感度」は低く、その為に、最終的な稲作生産の「脆弱性」はそれほど高くないと考えられます。ただ、タバナン地域の様に、適合性が下がり、水田も多く存在する地域があります。この様な、地域は「脆弱性」が高いと言えるでしょう。