来週のCOP16に向けて少し、気候変動関連の事をまとめて見る。気候変動は大きく分けて、温室効果ガス削減の「緩和策」と、温暖化後の世界に対処する「適応策」と二つに分けられる。適応策を考える上で、インパクトを受ける地域がどれぐらい脆弱であるかを調べる必要がある。
しかし、調べるにあたり、まずそもそも何を議論しているかを明確にする必要がある。そこで、脆弱性の定義をする必要がある。
脆弱性評価といっても、そこには色々な定義が存在する。脆弱性評価の権威であった僕の前職のボスは、「脆弱性評価の定義は150以上ある」と冗談をよく言っていた。数はさておき、脆弱性の議論は大きく隔たる。Contextual Vulnerability(潜在的な状況での脆弱性)では、脆弱性とは、システムやコミュニティの潜在的な特徴で決まるとしている。対して、Outcome Vulnerability(結果による脆弱性)では、潜在的な災害とそれに適応する能力の複合的な結果から脆弱性は決まるとしている。似ているが、前者は、外部からの影響に関係が無く脆弱性の解釈が「初めの段階」で決まっている。対して、後者は複合的な分析による「最後の結果」によって解釈される。その為、仮に同じ対象の脆弱性評価を行ったとしても、解釈が大きく異なることになる事がある。
さらに対策もContextual VulnerabilityとOutcome Vulnerabilityでは大きく異なる。前者は潜在的な事を対象にしているので、対策も潜在的な要因の底上げとなる。つまり、持続可能な開発やコミュニティ開発など、開発や発展問題に重点が置かれている。たいして、Outcome Vulnerabilityは結果としてインパクトがなければ良いので、ダムや高度な灌漑施設などの技術による対策でも解決できることになる。気候変動適応策の開発問題へのメインストリート化を考えると、Contextual Vulnerabilityはソフトな開発、Outcome Vulnerabilityはハードによる開発と捉えることが出来る。
COP16を開催する国連の定義はどうなっているかというと、脆弱性は災害からのインパクトと、適応能力から来るとしているので、Outcome Vulnerabilityと言う事になる。しかし、多くの議論が地域性などに関連するため、必ずしも技術による支援で解決できるとも考えていないであろう。
インドネシアに来る以前にストックホルム環境研究所で取り組んだ最後のレポートは、日本ではない某国の為に作ったのだが、脆弱性の定義が先方と大きく隔たっていたことで、初めつまずいた。そして、Contextual Vulnerabilityの重要性も説いて仕事は完結した。先日副代表から直接電話があって、先方がすこぶるレポートを評価してくれている「ありがとう」と連絡があった。国際社会では、バックグラウンドが違うため、同じ単語を使っていても、決して同じ事を話しているとか限らない。気候変動適応策の分野はまだ新しい分野なので、今後適応策の定義のまとまり方を見守っていく必要があるとつくづく思った。
COP16では何か変化や進展があるだろうか。個人的に注目しているところです。