2010年11月27日土曜日

不確定な気候変動への適応策 ~「メインストリーミング化」と「コミュニティベースの適応策」~

電力中央研究所の杉山大志氏が書かれた『地球温暖化研究の到着点と今後:「地球温暖化の環境考古学」の提案』が面白かったので、レビューと少し踏み込んだ意見。PDFはここからダウンロードできます。

杉山大志氏は適応研究をされている方ではないが、非常に頭の良い方で、資料の内容も筋が通っていた。僕が重要だと感じが点は二点:


  • 地球的な気候変動の調査研究をする場合にも、地域的な開発や環境変化の重要性も取り入れる必要性
  • シュミレーションに頼らずに、過去の自然環境への適応から学ぶ環境考古学の視点の重要性。



この視点がある理由は、以下の3点の要素があるからである:

  • 科学的には、気候変動の不確定性が大いに存在すること
  • 気候変動以外にも人間生活や生態系への影響は存在する
  • そして、それらの気候変動以外の影響自体が重要度の高い問題点があること


これは僕の視点と似ています。適応策のアプローチは大きく分けて二つ有ります。ひとつは気候変動モデルの精度を上げて、それに適応する方法を考える。もう一つは気候変動を含んだ潜在的な問題点を解決する。これは数日前に脆弱性の定義で説明した「潜在的な脆弱性」への対応です。この二つ目の概念によると、気候変動モデルの重要性はそれほど大きくなくなります。

僕が思うに、杉山氏はこの「潜在的な脆弱性」への対策の為、開発や地域的な環境変化の取り入れと、気候変動シュミレーションモデルに頼らない対策を説いています。そして、これは、適応研究で言われている「メインストリーミング化」と「コミュニティベースの適応策」にうまくマッチする考えです。そこを踏まえて、もう少し書いてみます。


メインストリーミング化

気候変動は不確定であり、その場合適応策の必要性も不確定になります。そして、開発問題でもっと大事なことがあるでしょうし、地域的な環境破壊を含めた変化には疑いの余地は有りません。そして、それらの事を考慮に入れることを「メインストリーミング化」をいいます。例えば、灌漑施設などをつくり農業の効率を上げる事は開発であり、また気候変動により水資源が少なくなってきたば場合それは有効な適応策になるでしょう。また、その地域の環境にあった農業を進めることは効率性でもあるでしょう。つまり、開発や環境変化を取り入れる結果が適応に成るかもしれません。酷な言い方をすると、仮に気候変動がなかったとしても、持続可能性な発展は遂げる事ができます。そして、気候変動があった場合、さらなる利点を得られることになります。気候変動に不確定性がある様に、気候変動懐疑論も絶対的なものでは有りません。科学とは常に、白黒はっきりしなく、灰色である事を理解するべきです。その灰色の結果を歪めた報道がなされたとき、科学は注意をしめすべきですが、白黒の判断するのは、科学者ではなく政治家や実業家などの意思決定者です。



コミュニティベースの適応策

話が、すこしそれましたが、もう一点、杉山氏が述べている「環境考古学による適応策」ですが、これは現在言われている「コミュニティベースの適応策」に合わせるとトレンドに合うと思います。つまり、過去の経験に基ずく対応策を見つける。その経験とはその地域に特性にあったものであるはずであるし、環境変化を取り入れたものでもあるはずです。大規模灌漑施設を仮に途上国に一つ作ったとしても、それを別の地域に転用する技術や資金はないでしょう。それなら、気候の変更にあった農業に変えたほうがいいかもしれません。本レポートではヨーロッパで気候の変化によって、ぶどうの栽培地域が変化したことを述べています。その方が、低コストで無理の無い適応策かもしれません。つまり、考古学などから過去の適応策を学ぶように、コミュニティの過去の経験から、無理のない適応策にを考える事が、先進国から大規模な適応技術の移転をするより、良いかもしれません。そして、これは適応だけでなく開発は、環境問題への取り組みでも同じでしょう。そして、このコミュニティベースの適応策とメインストリーミング化の問題がつながる訳です。



政治判断は別として、科学は盲目的に適応策研究について行うのでなく、広く環境変化と開発の話を取り入れた気候変動への取り組みがCOP16で話されるいいですが、これはサイドイベントでの話題でしょうね。それでは。

2010年11月24日水曜日

気候変動の脆弱性指数から、社会科学モデルの3つの問題点を見る ~データの存在、数学的問題、理論の間違い~
























世界銀行がポツダム気候研究所と製作を報告書が面白かったので、感想を書きつつ社会モデルを作るときの問題点を3つ指摘する。

今回取り上げるレポートのタイトルは:


How inequitable is the global distribution of responsibility, capability, and vulnerability to climate change: A comprehensive indicator-based assessment。


平たく言うと、気候変動へ責任、能力、脆弱性のの分布がどのように世界的に不公平であるかを、包括的な指標に基づく評価でおこなう。

PDFをここからダウンロード出来る。


本題のタイトルより、僕が面白いと思ったことは、量的な社会科学の調査のいい加減さを指摘しているところである。このレポートは過去の気候変動に関する脆弱性評価やそれに関連がある量的な調査を比べて、その優劣を議論している。

このレポートでは指数を使って国ごと脆弱性を比べている。脆弱性とは非常にローカルな事なので、国レベルの脆弱性を調べてもあまり役に立たないと思われるが、国際レベルでの適応策に対する資金の配分などに役立つと思われる。しかし、過去に作られた指数をもとに国際的に資金を比べる事に問題があるのではないか言う事にがこのレポートの趣旨である。


このレポートで取り上げた問題は、僕が常に言っている「社会科学モデリングの3つの問題」なので、それに組みなおして説明する。


データの問題

まず、社会もでるつくるのに必要なデータが存在しないことが往々にしてある。マクロレベルにデータが揃っていない場合。データを集めるか推測する必要がある。経済的なデータはある程度揃っていたとしても、それ以外はなかなか揃わない。経験から、経済以外で一番ちゃんとしたデータが有ったのは交通。その為、多くの行動学者は交通を研究フィールドにしているのだと思う。

脆弱性評価でも同じ様に、必要なデータが揃っているとは考えられない。実際、このレポートで取り上げられているDisaster Risk IndexやIndex for Social Vulnerability to Climate Change for Africaでは多くのデータはエキスパートからの知識に頼っている。つまり、推測でしかない。この様に重要な部分が推測のデータから得られた結果は、推測でしか無いので、調査の信ぴょう性が疑わしい。

この場合、どんなにモデルが優れたとしても、モデルを通す必要性自体が疑われる。


数学的な問題

広く評価されているレポートでさえ、初歩的な数学の間違いを犯している。検証(Varification)に問題があると言うことだ。例えば、Yahu等は複数の脆弱性評価の指数を比べたとき、基本数(Cardinal number)である気温と順序数(Ordinal number)である適応能力をごっちゃにしてモデルしている。


V = dT / dAC

dTが基本数の気温の変化だとして、dACが順序数の適応能力の変化だとする。そして、それらを割ったものから脆弱性を評価している。これは全く意味をなさない。dTを順序数にでも変換しておくべきであったと思う。


理論的な問題

これは同じ検証問題でもValidationと言われることである。Varificationの検証が「モデルを正しく作ること」であるのに対して、Validationの検証は「正しいモデルを作ること」にある。

例えば、このレポートによると皮肉にも、脆弱性指数と明確しているものよりも、国連がだしている人間開発指数(HDI)の方が信ぴょう性がある脆弱性の指数であることになる。しかし、かといってHDIが脆弱性評価の指数になるかと言ったら、そこには理論的な問題点がある。昨日のブログでも書いた事だが、現在IPCCで定義されている脆弱性とは、人間社会の「潜在的」な脆弱性だけでなく、気象モデルなどの検証を踏まえた「結果」をみる必要がある。つまり、HDIだけでは、気候などの外的な要因が含まれていない。つまり、HDIは理論的には脆弱性の指数には成り得ないのである。


社会モデルを専門としてきて常にぶつかることは以上の3つ。僕は現地調査やデータの収集のデザインもするので、分かることだが、社会調査では特にデータの質を過信するべきではない。特に、途上国から得たデータは出処を一度確認したほうがいい。データが間違っていたら、まともな結論にないたらない。帰納的推理(inductive reasoning)から社会を見るには避けて通れないことだ。

2010年11月23日火曜日

気候変動からの脆弱性を定義 ~潜在的な状況か、結果か~

来週のCOP16に向けて少し、気候変動関連の事をまとめて見る。気候変動は大きく分けて、温室効果ガス削減の「緩和策」と、温暖化後の世界に対処する「適応策」と二つに分けられる。適応策を考える上で、インパクトを受ける地域がどれぐらい脆弱であるかを調べる必要がある。


しかし、調べるにあたり、まずそもそも何を議論しているかを明確にする必要がある。そこで、脆弱性の定義をする必要がある。



脆弱性評価といっても、そこには色々な定義が存在する。脆弱性評価の権威であった僕の前職のボスは、「脆弱性評価の定義は150以上ある」と冗談をよく言っていた。数はさておき、脆弱性の議論は大きく隔たる。Contextual Vulnerability(潜在的な状況での脆弱性)では、脆弱性とは、システムやコミュニティの潜在的な特徴で決まるとしている。対して、Outcome Vulnerability(結果による脆弱性)では、潜在的な災害とそれに適応する能力の複合的な結果から脆弱性は決まるとしている。似ているが、前者は、外部からの影響に関係が無く脆弱性の解釈が「初めの段階」で決まっている。対して、後者は複合的な分析による「最後の結果」によって解釈される。その為、仮に同じ対象の脆弱性評価を行ったとしても、解釈が大きく異なることになる事がある。


さらに対策もContextual VulnerabilityとOutcome Vulnerabilityでは大きく異なる。前者は潜在的な事を対象にしているので、対策も潜在的な要因の底上げとなる。つまり、持続可能な開発やコミュニティ開発など、開発や発展問題に重点が置かれている。たいして、Outcome Vulnerabilityは結果としてインパクトがなければ良いので、ダムや高度な灌漑施設などの技術による対策でも解決できることになる。気候変動適応策の開発問題へのメインストリート化を考えると、Contextual Vulnerabilityはソフトな開発、Outcome Vulnerabilityはハードによる開発と捉えることが出来る。


COP16を開催する国連の定義はどうなっているかというと、脆弱性は災害からのインパクトと、適応能力から来るとしているので、Outcome Vulnerabilityと言う事になる。しかし、多くの議論が地域性などに関連するため、必ずしも技術による支援で解決できるとも考えていないであろう。


インドネシアに来る以前にストックホルム環境研究所で取り組んだ最後のレポートは、日本ではない某国の為に作ったのだが、脆弱性の定義が先方と大きく隔たっていたことで、初めつまずいた。そして、Contextual Vulnerabilityの重要性も説いて仕事は完結した。先日副代表から直接電話があって、先方がすこぶるレポートを評価してくれている「ありがとう」と連絡があった。国際社会では、バックグラウンドが違うため、同じ単語を使っていても、決して同じ事を話しているとか限らない。気候変動適応策の分野はまだ新しい分野なので、今後適応策の定義のまとまり方を見守っていく必要があるとつくづく思った。


COP16では何か変化や進展があるだろうか。個人的に注目しているところです。

2010年11月21日日曜日

インドネシアの気候変動適応策の現状と課題 ~メインストリート化~

インドネシアに来て早2ヶ月になる。気候変動の適応策と言われるの調査色が濃いプロジェクトをしている。せっかくなので、インドネシアの脆弱性評価をまとめてみた。






2007年に第13回目の国連気候変動枠組締約国会議がインドネシアのバリ島で開催され、2013年以降の次期枠組みの合意に向けたバリ行動計画が作られた。この行動計画で大きく注目を集めた一つの内容は気候変動への適応策である。つまり、気候変動によってもたらされる影響に関して、直接的又は間接的に対策をはかる事となった。二酸化炭素の排出量の削減を続けたとしても、既に気候変動からの影響は避けられない為、影響に対する適応策をこうじる必要がある。実質COP13で適応策はタブー視されなくなり、排出量削減の努力をするように、適応策は国際協力の重要課題になったと考えてもよい。その為、バリ島とインドネシア政府は気候変動適応策への重要な歴史の1ページを提供した事となった。インドネシアは気候変動の影響を受け易い地域と言われているので、気候変動適応策は国際政治以外の観点からも、重要度が高い。



インドネシアは、世界で最も大きい群島国であるので、海洋大陸と言われている。大部分のインドネシアは、2000mm以上の年間雨量があり、高い湿気と雨量は、気候が劇的に変化することを妨げている。その為、インドネシアの平均温度は、全群島でわずかの違いしか無い。しかし、気候変動によりその気象システムが変化する事が予測され、気象に関する災害からの影響が大きい国の一つと言われている。気候の変化により、気温の上昇だけでなく、かんばつや洪水の規模と周期に影響が出ると予想される。その為、影響を受ける範囲は、食糧安全保障、環境衛生問題、海面上昇など多岐にわたる。12月~1月の雨季にジャワ、パプア、スマトラの一部の地域とカリマンタン諸島の大部分で雨量の減少している (KLH 2009 p. IV-3)。そして、大部分のジャワ島とバリ島を含む東部インドネシアで降雨の上昇が観察されている。6月~8月の乾季に、大部分のインドネシアの地域で雨量の減少が観察されている。温室効果ガスの濃度の上昇によって、これらの変化は続き、インドネシアにより大きな気候に関するリスクをもたらすであろう。



気候変動からの影響が大きくなり、適応策を考えるとき、策は国の開発計画に統合されて考えるべきとされている。すなわちメインストリーム化である。気候変動の適応策は水資源の確保や堅固な農業の推進など、途上国の開発問題に直結した内容であることが多い。メインストリーム化することにより、一石二鳥で開発と適応策を効率よく達成することになる。そして、不確定要素が多い気候変動リスクへの適応策に効果がなかったとしても、メインストリーム化しておけば、一石一鳥で途上国の開発は促進される。インドネシア政府も、気候変動と開発問題の関係に関心をもっており、周辺諸国と比較しても、政府が制作する中期開発計画は気候変動に対する脆弱性と適応策が良く組み込まれてある。政府は、最近の中間開発計画を更新したが、その中で、重要な政策戦略の優先項目には、いくつかの気候変動適応策に関連する事が書かれている(Indonesia 2009)。



例えば、教育と健康を含めた、公益事業の交付の改善をひとつの優先項目に上げている。気候変動により、もし伝染病が今まで存在していなかった地域に拡大した場合、それに対応すべき新たな事業を迅速に立ち上げる必要性が出てくるであろう。その時、公共事業の交付がスムースに行われる事は適応策の一つと考えても良いのでないだろうか。開発計画や気候変動適応策で共通している言えることは、財政的な制約のため、公共事業に民間セクターを上手く取りいれる必要性がある。そして、インドネシア政府は民間部門参加により、既存の基盤とユーティリティの効率を改善することも視野にいれている。



水資源開発計画の優先項目は水資源の確保である。既存の水源確保を効率化して、貧困者へ良質な飲料水を供給する。降雨量の変化に伴い、水資源は気候変動から影響を受け易い分野であり、貧困層は気候変動に対しての脆弱性が高いと言われている。その為、この優先項目も気候変動に大いに関連がある政策と考えられる。政府は2014年までに、これらの優先項目を実施しやすくすることを目標にしている。その他にも、インドネシア政府は環境機能の改善と持続可能性を開発計画にメインストリーミング化する事も考慮に入れている(KLH 2010 pp. 8-9)。 今後の適応策プロジェクトは、これらの開発と適応策の分野を優先項目に従いサポートしていく必要がある。


参照文献


  • Boer, Buono, A. Rakhman and A. Turyanti. 2009. Historical and Future Change of Indonesian Climate. in MoE. Technical Report on Vulnerability and Adaptation Assessment to Climate Change for Indonesia - Second National Communication. Jakarta: Ministry of Environment and United Nation Development Program.
  • Indonesia. 2009. Overview of the Indonesia's Medium Term Development Plan 2004 - 2009.
  • KLH, Indonesia. 2010. "Mid-Term National Environmental Plan 2010-4 (NARASI).".
  • ------. 2009. Summary for Policy Makers: Indonesia Second National Communication Under the United Nation Framework Convention on Climate Change (UNFCCC).

Facebook

zenback