2012年7月8日日曜日

【書評】「村上春樹:走ることについて語るときに僕の語ること」を禅的に語る


走ることについて語るときに僕の語ること
村上 春樹
文藝春秋
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今年はじめてハーフマラソンに参加したので、この本を手にとった。この本の存在は知っていたし、複数の友人から「絶対いいから」と勧められていたが、ランニングをするまでは読む気にならなかった。この本の英語版は「What I Talk about When I Talk about Running: A Memoir Haruki Murakami」で、「村上春樹の回顧録(自叙伝、自伝)」というサブタイトルがついている。そう、この本は走ることについて書いているが、それ以外にも村上春樹氏の仕事の仕方、半生記、性格、考え方等が書かれている。

有名な本なので、わざわざレビューをする事もないが、読んでいて「禅ぽいな」と思ったので、禅的である部分に集中して書いてみます。


何も考えない=空

彼は走っている時に何を考えているかというと、「何にも考えていない」との事。ただ走っている。空白で走っている。彼はそれを意図してかどうかわからないが、禅の「空(くう)」と「空(そら)」とかけている。
走っているときに頭に浮かぶ考えは、空の雲に似ている。いろんなかたちの、いろんな大きさの雲。それらはやってきて、過ぎ去っていく。でも空はあくまで空のままだ。雲はただのゲストに過ぎない。それは通りすぎて消えていくものだ。そして、空だけが残る。空とは、存在すると同時に存在しないものだ。実体であると同時に実体でないものだ。僕らはそのほうな茫漠した容物の存在する様子を、ただあるがままに受け入れ、飲み込んでいくしかない。(p.32)

無であり、有である。それが空。村上春樹氏の説明はそれこそ禅の空でした。この「走っているときに何も考えない」の感覚は、彼が100kmのウルトラマラソンに参加したときにも出てきている。100Kmマラソンの最後の20Kmを下記のように示している。

文字通り「機械的」に反復する。そして自分の感知する世界を出来るだけ狭く限定しようと努める。・・・その先を考える必要なない。空も、風も、・・・真実も、過去も、記憶も、僕にはとってはもうなんの関係もないものごとなのだ。ここから、3メートル先の地点まで足を運ぶーそれだけが僕という人間の、いや違う、僕という機械のささやかな存在意義なのだ。(p.151) ・・・75キロのあたりで何かがすうっと抜けた。・・・「抜ける」という以外にうまい表現を思いつけない。まるで石壁を通り抜けるみたいに、あっちの方に身体が通過してしまったのだ。・・・それからあとはとくに何も考える必要はなかった。(p.153) ・・・自分が誰であるとか、いま何をしているだとか、そんなことさえ念頭からおおむね消えてしまっていた。・・・行為がまずそこにあり、それに付随するように僕の存在がある。我走る、故に我あり。(pp.154-5) ・・・しんとした心持ちだった。意識なんてそんなにたいしたのもではないのだ。そう思った。(p.156)

「以上が悟りを開いていく過程です」と説明されたら、「そのですか」と頷いてしまいそうです。まず、意識を「今」に集中して、そして、「それ」を考える必要すらなくなり、「自分」の概念が消えて、最後に「意思」が消えてしまう。

私もオーストラリアの砂漠を自転車で渡っていた時、次の街に着くまでに水がなくなりただ淡々とペダルを回しでいたときに、似たような感覚になったかな~と思いますが、20年も前のイベントでしたので定かではありません。その後は、似たような感覚があったかどうかわかりませんが、この感覚を日常的にできることが悟りを開くことなのでしょうか?私にはまだわかりません。

話をレビューに戻すと、集中と持続することは走るだけではない事が読み進めるとわかります。


才能、集中力、持続力

長い間小説家として生きていく事を語ってる所も興味深かったです。才能の次に大事な資質は、「集中力」と述べています。才能と違い、集中力は鍛えられる。村上春樹氏は、朝に3時間から4時間仕事をするだけのようです。短いと思うかもしれませんが、彼の業績を考えると、ダラダラ仕事をするより、一点に集中して他事を考えずに、4時間仕事をする事は、ダラダラと8時間仕事をするより、良い結果を生むのでしょうね。

その次に大事なのことは、持続力。日々の集中力を半年も一年も続けれれる能力も長編小説家には求められるっていうか、誰にでも求められる能力でしょう。集中力が「じっと深く息を詰める作業」で、静かにゆっくり呼吸していくコツ」が持続力と例を上げておりますが、そのまま禅堂で座っている時の様子でもあります。

この持続力も後から、トレーニングで鍛える事ができます。彼が走る理由がココに有るわけです。何度も何度も同じ事を繰り返し、断続して情報を身体システムにおくり、それを叩きこみ、少しずつ限界値を上げていく。マラソンのトレーニングの一環であり、彼の仕事の姿勢であります。


まとめると

この自伝を読んで、村上春樹氏のメッセージは:

一点に集中する事が出来なけれが、何も達成することは出来ない。目の前に有ることに(村上春樹氏の場合は日々の小説執筆であり、毎朝のランニング)に集中して、全力でこつこつと一歩一歩進んでいく。そして、それを出来るだけ長い時間続ける事を心がける。しかし、それと同時に、「今ある物で何とかやっていく」事を学ぶ。「全力を尽くしたなら、いいじゃないか」って思う。

まるごと禅道だとおもいました。私も集中力と持久力を鍛えたいと思います。しかし、村上春樹氏のように、毎日できない人もいるでしょう。そんな人にもう一つ私からのアドバイスがあります。それは、「一度やめてしまっても、もう一度始める」事です。日記などが続かない理由は、「中断した後に、再起しない」からです。単純ですが事実です。そう、丁度この不定期ブログの様に、続ければいいのです。

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