2011年11月6日日曜日

未来への割引率がマイナスで有るべきかもしれない理由 ~気候変動下での、地球共同体の割引率~

ここで述べたことを説明しようを思う。




経済学 (〈一冊でわかる〉シリーズ)
パーサ・ダスグプタ
岩波書店
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上で述べているように、この本では、パーサ・ダスグプタ氏がマイナスの割引率の可能性を気候変動の分野で、日本語で説明している。気候変動に対しての記述は、正確ではない部分もあるが、そこはちょっと古い経済学の本ということで目をつぶろう。

154ページから、気候変動での割引率について記載せれている。まず、経済学者がどのように、意思決定をするか現実の例を上げている。


「2004年に著名な経済学者8人がコペンハーゲンに招かれ,
世界共同体が500億ドルを5年間で使っとしたときの最も有効な使
い方について助言を求められたとき彼らは10個の選択肢の中で
気候変動を最下位に置いた.(p.155)」


なぜ、このような結果になったかと言ったら、それは、将来の費用と便益をプラスの割引率で計算したからだ。これは、経済学を学んだ人でなくても、「普通」な事である。今日の1万円もらうとの、来年一万円をもらうのでは、今日の一万円もらったほうが、安心だし満足する。つまり、今日の一万円は、来年の一万円より価値があることになる。別の言い方をするなら、今日の一万円もらって使うのを諦めるなら、来年は一万円以上貰う必要がある。だから、お金を貸すときは、プラスの利息を付ける必要がある。これが「資本の機会費用」と言われることである。

気候変動は数十年先の話をしているので、気候変動対策に今お金を投じても、将来の見返りを現在の価値に直すと、小さくなってしまう。例えば、年利5%を割引率として、50年後に百万円の利益を出すものは、現在の価値に直すと、87万円程度になってしまう(10,000,000/(1 + .05)^50)。もちろん、気候変動の信ぴょう性やプロジェクトの成功度なども本来加味するべきだが、本書ではそこは議論していない。注目しているのは、このプラスの割引率は「普通」なことである。


パーサ・ダスグプタ氏はその「普通」な事に、2つの点から議論している。

    1. 地球共同体がある便益を今性急に欲しがっているか、そうでなければプラスの割引率は適切か?
    2. 正義と平等のもとで世代聞で平準化すると、プラスの割引率は適切か?.


    まず、一つ目の性急さに関して。今の利益に集中するのであれば、プラスの割引率は妥当である。しかし、ダスグプタ氏は、今日存在しないというだけで、孫世代やひ孫世代を支持しないのは、将来世代を差別する政策でうけいれられないとしている。


    割引率がプラスである理由のもう一つに、1人当たり消費が今後も上昇して、豊かになっていくと仮定しているからである。今後、仮に気候変動が深刻化した場合、今後の成長は望めるだろうか。プラスの割引率を使っているという事は、「気候変動は大した影響を及ぼさない、だから成長は止まらない」と言っているのと同じである。つまり、気候変動には不確定要素が大きいが、その「問題なし」のシナリオだけを、仮定して経済モデルを廻しているのである。


    別のシナリオでは、将来の成長が鈍化して、一人あたりの消費が減ることも十分に考えられるだろう。その場合、未来世代との平等を考えるのなら、将来の使益を割り引くのではなく、増やして計算する必要があるだろう。




    ダスグプタ氏はその説明の為、以下の様なシナリオで計算している。



    「…今後50年間,地球全体のl人当たり消費が年間0.5%ずつ増えていき,その次の100年間にはl年当たり1%ずつ減っていくというシナリオを考えよう。このシナリオの下では、地球共同体は、将来消費の便益を今後50年間はl年当たり1.5%(0.5%の3倍)で、その次の100年間はl年当たりマイナス3%(マイナス1%の3倍)で割り引くべきである。簡単な計算をすれば、今から150年後に行う1ドル分の追加的消費は、今日の時点での9ドル分の追加的消費と同じ価値を持つことが分かる。別の言い方をすれば、地球共同体は、 150年後に1ドル分を追加的に消費することで便益を得るのと引き換えに、今日の追加的消費9ドル分を諦めてよいと考えるべきなのである。(p.159)」





    一つここで気を付けたい所は、ダスグプタ氏が話していることは、「地球共同体」であって、「民間の投資家」では無いことである。資源としての空気がオープン・アクセスで在り続け、商業銀行の利子率がプラスでありなら、そのまま割引率はプラスでありつづけるだろう。大気の排出が心底規制されるのであれば、この仮説の正当化されないだろう。もっと言えば、ダスグプタ氏が話しているのは、「こうあるべきだ!」であって「実際こうである」ということではない。ちなみに前者をNormative Economicsで後者をPositive Economicsと言う。


    話を元に戻そう。ダスグプタ氏の説明はここで終わっているが、マイナスの割引率を実験経済学で調べている学者もいる。Hyperbolic discountingというが、最後の例の様に、最初はプラスの割引率だが、もっと先の将来はマイナスに転じる割引率である。Wikipediaの例にならうと分かりやすい。たとえば、今の五千円か一年後一万円の選択肢を提供されたとき、多くの人々は即時の 五千円を選択する。しかし、5年後に五千円と6年後に一万円の選択与えられたほとんどの人は、実質的に同じ選択肢であっても、6年後に一万円を選択する。


    倫理的なトピックで議論の余地は大有りですが、意思決定は面白いですね。


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